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小学生の時に桜舞うお花見の行事で告白された。
桜舞い散る薄紅色の花びら。
充分すぎるほど完璧なシチュエーションだった。
元彼とは言っても小学生の時の初恋の人で、両思いになった直後、転校した彼氏。だから、付き合っていたとは正直言い難い。
初恋は実らないというのは事実のようだ。
それ以来好きな人はできていなかった。
恋愛から遠ざかってしまっていた。
人を好きになる感覚はなくなっていた。
春が訪れるころ、土手にシロツメクサやオオイヌノフグリが生息する季節がやってきた。新しいクラス、新しい担任、新しい生活が始まった。
中学生になって、母子家庭だった私に弟ができる日が来るなんて、思ってもみなかった。紹介されて、息を呑んだ。
その義理の弟となる人が初恋の一瞬だけ付き合った元彼氏だったなんて。
父が亡くなったのは5年以上前だ。まさか母親が再婚するなんて想定外だったけれど。年単位で温めた恋だったらしい。大人になっても人を好きになることができることは人生を豊かにする。
久々の再会はどこかぎこちない。
中学生になった初恋の元彼は小学生の時と比べて背も高く、肩幅も広く、顔つきもだいぶ大人になっていた。声も低くなっていて、態度も別人のようにでかくなっていた。
つまり、横柄で生意気になっていた。正直素直で優しいから好きだったのに、悪い意味で内面が変わっていることに私は傷つく。
外見はかっこいいとは思うけれど、内面は思っていたのとは全然違った。
中学生になった元彼は目つきも鋭くなっている。ちょっと怖い。しかし、ぼつりぼつりと話の中で、彼が変化した経過がわかるようになった。
両親が仲が悪くなり、母親が家出をした。そして、自分を捨てたということだった。
いい人だと思っていた人がそうじゃない。彼は心の中で大人をはじめ、全ての人間が信じられなくなったらしい。まだ、俺のこと好きなんだろという言動に私は違いますと完全否定。
そのあたりも、以前より、ある意味話しやすくなったような気がする。
姉と弟と言っても、義理であり、生まれつきの早い私が姉となっただけで双子でもなんでもないけれど、まだ、彼のことを好きな自分がいることに気づく。
今の彼は何も変わっていない。素直で優しいところも隠しているだけだということに気づく。
そして、姉と弟でも義理の姉弟ならば、結婚できるということを聞いた私は更に同居しながらも恋心を隠す。
多分、私のことなんて彼は好きじゃないはずだ。
「桜の下でもう一度会ったらって約束覚えてる?」
「お花見しようとか言ったっけ?」
私の記憶力はかなり抜け落ちている。
「もう一度、恋をはじめようって言ったの覚えてないのか? また再会した場合の話だから、あの時はもしもの世界線の話だがな」
そういえば、春風の中、彼は転校してしまった。
あまりの悲しさで記憶が飛んでいた。
「嫌いになって別れたわけじゃない。物理的距離があるのに恋愛を継続させるには子供には難しい。だから別れた」
「今でも好きってこと?」
「おまえは鈍感だな」
手を差し出される。
私たちは無言で桜並木の下を歩く。
手と手がつながっている。
心と心がつながったのを感じながら。
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