初めての死

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初めての死

 17歳、深夜、道端ーー、自分は死んだ。   トラックに撥ねられ死んだ。  体が宙に飛び、地面に叩きつけられた衝撃と全身から流れる血。 あぁ、死と自分は死ぬのだとトオルは悟った。 「……まじか」  口から溢れた血で上手く言えなかったが、確かにトオルはそう言った。頭を強く叩きつけられたせいで脳の痛みを感じる機能が壊れたのか不思議と痛みはない。頭もやけに冷静だった。  自分はこれから死ぬ。  トオルを撥ねたトラックはいつの間にかどこかに消えた。日付をまたいだ人通りのない深夜の道、撥ねられ動けないトオルの発見はきっと朝方になるだろう。  血は現在進行形でとめどなく流れ続け、立ち上がろうにも、救急車に連絡しようにも体が全く動かない。  自分は死ぬ、そう悟ったトオルの脳内で、生まれてから現在に至るまでの映像が一気に流れ出した。  これが所謂走馬灯なのかと内心感心しつつも、トオルは自分の人生を振り返る。  生まれた時、初めて歩いた時、小学生、中学生、高校生――。 「……つまんねぇ」  改めて振り返る自分の人生は――、とてもつまらないものだった。 親は少なくとも、悲しんではくれるだろう。  だが、他人の、例えば同じクラスのクラスメイトはトオルが死んだことを悲しんでくれるだろうか。  きっと、時が流れてしまえば、誰もトオルの顔も、何もかも思い出さなくなってしまうのではないか。  その時、トオルの中で初めてと言ってもよい感情が湧き上がる。   「……何も無いは、嫌だ」 1度溢れてしまった感情はとめどなくトオルの脳内を支配する。 目立つことを避けてきた、誰の印象に残らないようにしてきた人生だった。だが、死ぬ直前にトオルが強く思ったのは  誰の印象に残らないモブの人生ではなく、何かの主役になりたい。  自分が話の中心にいるような人気者に、1度でいいからなりたい。 そんな子供じみた承認欲求であった。  トオルの脳裏に、クラスメイトのユウヤの姿が浮かぶ。  薄い色素の髪と瞳。目鼻立ちの整ったユウヤはその美貌と気さくな人柄で男女問わず好かれている。トオルも2つ隣 の席にいる彼の存在を話したことはないけども、意識はしていた。  ユウヤはまさに主人公そのもの。  対してトオルは、ただのモブ。  嫌だ。そんなのは嫌だ。自分は、ユウヤのように、ユウヤになりたい。 ユウヤに、なりたい。   「……ユウ、ヤ」  そう強く願いながら、トオルは目を閉じた。
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