慣れてきた日常

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慣れてきた日常

「桐島! お前、最近調子がいいな!」  中村の大きな声は廊下中に響く。  これではトオルだけでなく、シュウ、リク、アリユキにも丸聞こえだ。  内心迷惑に感じながら、ユウヤであるトオルは貼り付けた笑みで中村に対応する。 「ありがとうございます」 「調子悪そうで、心配したんだぞ」  機嫌よさそうに話す中村の話をトオルは話を聞く。  中村は確かに生徒に対して熱心だ。はたから見ればよい教師である。  だが、実際ユウヤとシュウ達の関係に気づいていなかったりなどトオルから見れば間の抜けていると感じることも多い。  それでも生徒から人気のある教師であり、中村の前ではシュウ達もおかしなことはしてくることはない。 「それに、瀬名ともよく話しているじゃないか。あいつ話すと結構いい奴だろう」 「えっと……、そう、ですね」 「あいつも最近提出物出すようになったし、お前のおかげだな」 「げっ……」 「どうした?」 「な、なんでも!」    つい素が出てしまい、トオルは勢いよく訂正する。  トオルとユウヤ、入れ替わった二人が互いに助け合うと決めた時、まず決めたのは『二人の体が戻った時に困らないようにする』ということだった。  トオルとなったユウヤは楽だ。成績も悪く友人もいないトオルとして振舞うにはなにもしなくてよいのだから。  だからトオルとなったユウヤも特になにもしなくてよいのに、ユウヤはトオルの許可なしに宿題をやったり、自主的に勉強をしたりしている。これでは戻った時に面倒だとユウヤに言ったがユウヤに言わせれば「学生が勉強をして何が悪い」と論破されてしまうので諦観している。 「ユウヤ、努力家だもんな」 「有田もちゃんと見習えよ」 「ひでー、俺だってちゃんとやってますよ」 「だったらちゃんと毎日ノートを出せ。いつもテスト後にしか出さないだろ」 「そりゃ勘弁! 俺はシュウ達みたいに真面目じゃないんですよ!」    アリユキと中村の軽快な軽口にシュウもリクもその会話に入る。  一見貼り付けた優等生の顔をしている3人だが、放課後になればそれは悪魔に変わる。  特に、リクだ。 『テストについてだけど、絶対にリクの順位は超えないで。なんでかわからないけど、リクは俺の成績を気にしている。俺は、一度だってリクの成績に勝ったことがないのに』  ユウヤから言われた言葉をトオルは思い出した。  リクは成績が良い。  学年順位は常に一桁だ。それなりに偏差値も高いこの高校でその成績はかなり優秀だ。  それに、リクは塾にも通い、その塾でもよい成績を取っている。  トオルはおろか、ユウヤにも敵わない学力を持っているというのにリクはユウヤの点数に固執する。 『進路?』    確かにトオルが中村と二人で話した内容を聞かれた時、ごまかすために言った「進路」という言葉にリクは反応していた。  その日はシュウとアリユキの殴る蹴るを飛ばしてリクとの行為になったのだ。  その時はまだ何もわからない時だったから、単にトオルが3人を待たせすぎたのではと思っていたのだが――、どうやらリクはユウヤの成績を気にしているからこその行動らしい。 「……」  トオルがユウヤとなってすでに1か月ほど。  ユウヤの助けもありなんとなく3人の対処法がわかったものの、なぜこの3人がユウヤに対して暴力行為をするのかはわからない。  根っからの性癖、というにはあまりにも簡単すぎる。  ユウヤはトオルに何も知らなかったからこその知見を求めているが、今のトオルには分からなかった。
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