また違う恐怖

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「ユウヤ!!」  トオルはユウヤの名を叫んだ。  バランスを崩し階段から落ちようとするユウヤに咄嗟に手を伸ばす。  しかし、その手は空振りに終わった。アリユキが落ちかけたユウヤをまた掬うように抱きしめたのだ。  その代わり、ユウヤの手から離れた松葉杖が勢いよく音を立て階段から落ちる。 「わりぃ瀬名、手、滑った」  アリユキは笑いながら、自分の腕の中に納まる形になったユウヤに謝る。  ユウヤの顔は青ざめていた。自分が本当に落ちると思ったことだろう。トオルもそうだ。  無事だとわかった今でもトオルの心臓はうるさいほど脈打っている。 「大丈夫か?」 「……」 「瀬名?」 「ぁ……、だ、い、じょぶ……」  アリユキに抱きしめられたままのユウヤは震えながら頷いた。  トオルは急いで落ちた松葉杖を拾い、ユウヤに手渡す。 「あ、ユウヤ、サンキュ。瀬名、立てるか?」 「う……、うん」  ユウヤは震えた手で松葉杖を取り、それを見たアリユキが手をパッと放した。  アリユキの腕から解放されたユウヤはおぼつかない足取りでなんとか松葉杖を使い、1人で立つ。 アリユキはそんなユウヤをじっくりと観察している。 「ごめんな瀬名。ほんと突き落とす気はなかったんだけどさ」 「う、ん……」 「ユウヤも、びっくりさせちゃったな」 「……アリユキ」  アリユキの目は、笑っていなかった。  これは故意だとトオルは確信する。アリユキはわざとユウヤを突き落としたのだ。 「……なんで」 「おい、さっきの音、大丈夫か!?」  トオルが言いかけたところに現れたのは中村だった。  松葉杖の落下音で飛んできたのだろう。  この際どうなってもいい。トオルは中村の方を向く。 「先生! アリユキが――」 「少し、手を滑らしちゃっただけです。それを、有田君と瀬名君が助けてくれました」 「なっ――!」  ユウヤのアリユキをかばう言葉に絶句する。トオルを無視し、ユウヤは言葉を続けた。 「驚いて、大きな声だしましたけど。大丈夫です」 「怪我はないか?」 「はい。松葉杖も、拾ってもらいました」  アリユキをかばう嘘を重ねるユウヤにトオルの顔がどんどん険しくなる。  それをアリユキが面白そうに見つめている。  何も知らない中村は露知らず、ユウヤが何もないとわかると3人に話始める。 「瀬名、足が痛むようだったらエレベーターを使え。せっかく治りかけているのに、階段から落ちたら意味がないぞ」 「すみません」 「有田も桐島も、手伝うのはいいが一緒に落ちたら危険だ。気をつけろよ」 「はーい」 「……」 「ほら、教室、いけるか?」 「はい」  ユウヤは中村に手を借り、階段を上る。  それをトオルは守るように隣に歩く。アリユキはその後ろで、トオルをユウヤの二人を見上げている。  トオルはアリユキを睨みつけた。その視線をアリユキは笑みで返した。
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