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ユウヤの希望
元々トオルは勉強は好きでは無い。
だけど、ちゃんと勉強をしたら仕事人間の両親に褒められるのではないか、そう中学までは思って勉強をしてきた。
好成績を残し、入学した県内トップの高校の入学式。トオルの親はその日、仕事だと言ってどちらも来なかった。
トオルは重い荷物を持ちながら帰路に着き、コサージュがついたままの制服を脱ぎ捨てベッドに沈んだのを今でも鮮明に覚えている。
結局、自分の両親はトオルを褒めることはなかった。だから、勉強しても無駄だと、トオルは入学式のその日に思った。
そう思うと全てが面倒に思えた。誰もが必死になる友達つくりも、全て。そして、トオルは一人ぼっちになった。
だから勉強は嫌いだ。ペンも握りたくない。
今までユウヤと入れ替わるという特異な経験をしたからなんとか誤魔化されたものの、成績のよいユウヤと同じ水準の成績を取らなければというプレッシャーがトオルのやる気を削いでいた。
「……」
そろそろユウヤが来る時間だ。
トオルの世話を焼いてくれるユウヤはトオルの勉強に口うるさく言う。
正直、トオルよりも酷い環境にいるユウヤがなぜここまで頑張れているのか、トオルには分からない。トオルの立場ならもう全て投げ出してとっくのとうに学校を辞めているはずなのだから。
トオルは部屋を見た。
ユウヤの手で完璧に掃除されているこの部屋。トオルはなんとなく、棚にあるノート手に取る。
「……」
これはユウヤの家計簿だ。
入れ替わった時に一度見た限りの家計簿だが、改めてみると印象が変わる。
おそらく1年前、まだシュウたちと友達であった頃のようで出費欄には高校生がよく行きそうなファミレスや、ゲームセンターなどの記載があった。
ページをさらにめくる。明らかに筆記が乱れている時期がある。
おそらく、ユウヤへの行為が始まったのがこの辺りなのだろう。ファミレスなどの娯楽の出費が消え、絆創膏などの医療道具への出費が目立ってきた。
その筆記の乱れが次第に落ち着きを取り戻したのはそこから3ヶ月後。明らかに節約を意識した家計へと変わっている。
ここからそれなりに歩くスーパーに行き、安い食材を買ったり、電気代を安くするために月々の光熱費をメモしたものがノートの脇に書いてある。
「……!」
挟まれていた大学のパンフレットを見つける。
パンフレットを広げてみると、学費や入学費に赤線を引いてあった。
「……」
ユウヤはシュウたち3人に搾取され続ける中でも希望を捨てずに努力していた。
今、トオルが上手くやらなければ、全てが無駄になる。
「……よし」
トオルはペンを握り、ノートに向かった。
その時、家の鍵を開ける音がする。
振り向くと、ユウヤがいる。
「おかえり」
「……偉いじゃん、勉強して」
ユウヤの驚いた言葉にトオルは思わず吹き出す。
保護者と子供。そんな関係から少し変わる気配がした。
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