不穏

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不穏

 テストが終わるといつもの場所でアリユキ達は打ち上げをやるのが常だった。  アリユキとシュウは小学校から、リクとは中学から行っている恒例行事は高校1年の前半の時期を除き毎回三人で行っている。  話す内容はテストの内容や学校のこと、今は友達ではないユウヤのことまで多岐にわたる。  皆、想定通りの点数をとった。  アリユキの母親はそこまでアリユキの成績に強くは言わないが、シュウとリクの親は息子の教育には厳しく、毎回テストの点について色々言われているのをアリユキは知っている。  特にシュウなどは成績が下がればこのたまり場になっている家も没収される可能性があるため、毎回それなりに勉強しないといけないのだが、シュウの様子を見るに今回もその心配はないようだった。  アリユキはシュウの変わらない様子に安堵しつつ、シュウとリクに話を切り出した。 「最近のユウヤ、どう思う?」  アリユキの言葉に2人の菓子をつまむ手が止まった。  その言葉にまず反応したのはリクの方だった。 「……瀬名についてか?」 「うん、まあ」  瀬名。  トラックに撥ねられた目立たない地味なクラスメイト。  1ヶ月ほど学校に来ない時期があったが、今は登校してきている。怪我も順調になおり、すでに松葉杖もしていない。  そんな瀬名が、ユウヤとよく居るようになった。  それは隣の席になったからという理由だけでは無い、何やら2人の間にある絆から来るような、そんな違和感があった。 「ユウヤが、瀬名に俺達のこと話しているっていうのは2人も分かってただろ?」  二人の顔が一気に険しくなる。  アリユキ達がユウヤを陵辱してることについてはユウヤは対し他の人間に伝えないようにきつく言いつけていた。  ユウヤの家が複雑な家庭であることは知っている。この高校に入学するのにも様々な苦労があり、ユウヤも学校の推薦を考えている身としては何が何でもこの学校にいなくてはならないのである。  ユウヤの親にでも知られたら、きっとこの学校を辞めなくてはいけないのだから。  それをわかっているからこそ、アリユキ達はユウヤを使うことにした。聡いユウヤなら、誰にも言わないと考えていたが、突然現れた瀬名という存在がそれを狂わせている。  「瀬名、明らかに俺らに脅えている」 「ユウヤから教えられて、俺らが恐ろしくなったということか」 「けど……、なんか違う気がするんだよな」 「違う気?」    リクの問いにアリユキは一度シュウと目を合わせた。  シュウにはすでに話している話だが、オカルトや迷信を全く信じないリクにそれを伝えるのには少々勇気がいった 「リク、瀬名だけじゃなくて、ユウヤもおかしくなったと思わないか?」 「ユウヤが?」 「あいつが俺らに黙って休んだ時からだ。そもそもその日も俺らの連絡に出なかったり、次の日には携帯のパスワードをわからないって言ってきたり――、どう見てもあいつもおかしかっただろ?」 「…………」 「その後もおかしかったよな。ここに連れてきた時も初めて来たような顔をして。俺に殴られてるっていうのに受け身もとってない。その後も、そうだった」  リクの顔はさらに険しくなる。  きっとリクもわかっていたのだろう。ユウヤの様子がおかしかったことを。一時期のユウヤのやつれ具合がそれを証明している。 「瀬名が学校来るっていうときも様子おかしかったよな。んでそこからだよ、あいつの調子が元にもどったの」 「……つまり、ユウヤが瀬名に俺らの事を話したタイミングがそこというわけか」  リクの納得した言葉に、アリユキは首を横にふる。  自分よりも頭の悪いアリユキに否定され、リクは不機嫌そうにしたのを無視しアリユキは言葉を続けた。 「俺、瀬名の事見るようにしたんだよ。確かにあいつは誰にも話をしようとしない奴で、俺もよくはわからない。だけどよ、やっぱり、瀬名の雰囲気も変わってる。事故に遭う前と今じゃ、別人だ」 「……何が、いいたい?」  リクの苛立った様子を見て、アリユキはひとまず一番の本題を言うことにした。  正直、リクに信じてもらえるかどうかわからない。シュウはまだ柔軟なところがあるのでアリユキの話を信じてもらえたが、リクは一筋縄ではいかないことはアリユキもよくわかっている。 「リク、『入れ替わり』って信じるか?」 「は?」 「入れ替わりだよ。例えば俺とシュウの体はそのままだけど、中の心だけ入れ替わるってやつ。ドラマとかで見たことないか?」 「知らん。なんだ、ユウヤと瀬名の心が入れ替わってる。お前はそう言いたいのか?」 「ああ」  アリユキの話を聞き、リクは何を馬鹿なことをとため息をついた。  確かに、創作物ではよくあることだが現実世界でそういうことなど、おこるはずもない。  だが、アリユキにはもう一つ、心当たりがあった。 『お、お、れ……、ト……ォ、ル、違う、ユ、ウヤじゃ……』  あの日、確か、ユウヤが瀬名と一緒に図書館で勉強しようと言い出した日の後のこと。  ユウヤは戯言でそのようなことを言っていた。  普段はやめろだとか嫌だとしか言わない口から急に具体的に個人名が出たことが意外で、アリユキも覚えていたのだ。 「あいつは変わってない。瀬名のことは対処しなければいけないが――、まさか入れ替わるなんて」 「確かに俺もおかしなこと言っているとは思っているけどよ……、なあ、シュウ、どう思う?」  考えを認めないリクに困り果てたアリユキはシュウに助け舟を求める。  すでに話をしてあるシュウはリクと違い、アリユキの話を聞いてくれる。ありえないの一辺倒で門前払いするリクとは大違いだ。  アリユキに話を振られたシュウは少しばかり考えたような素振りをしながら、つぶやいた。 「瀬名に聞けば、いいだろう」 「……正気か?」 「どうせユウヤに言っても認めない。だったら、直接瀬名に行った方が早いだろう」  シュウの言葉にリクは不服があるようだったら、ユウヤが瀬名の事を言っても認めないのはリクもわかっているはずだ。  ならば、瀬名に直接聞いたほうがいい。どうせ実行するのはアリユキなのだから。  リクもシュウの言葉を否定しようとしたようだが、それが思いつかないようで悔しそうに顔を背けた。  この状態のリクはいろいろと面倒なことをアリユキは知っている。  それをなんとかするのはユウヤなのだが。    
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