真横のハサミ

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真横のハサミ

「ユウヤ!」  急いで起き上がる。見ると、ユウヤの頬すれすれの位置のところのベッドの位置にハサミが突き刺さっていた。  掠れたユウヤの首筋からベッドにかけて出来た一直線の血が流れている。 「アッ……、アッ……」  ユウヤの首の怪我は掠れただけだ。命に別状はない。  だが、ユウヤの顔からは血の気が引き、目は見開かれたまま。  見たことがないユウヤの反応に動揺する。 「ユウヤ!」 「ハッ……、ハッ……」  過呼吸にも似たユウヤの症状に焦りどうにかしようと手をもがく。だが手は縛られたままでどうすることも出来ない。  このままではユウヤが死んでしまうと思い、トオルは後ろにいるリクに叫んだ。 「このままじゃ、ユウヤが死んじゃう!」 「ただの過呼吸だ」  リクの回答は冷酷だった。  シュウも、アリユキも明らかに呼吸が出来ていないユウヤになにかしようとする素振りもない。  誰にも頼れない状況。トオルはユウヤに必死に語り掛ける。 「ユウヤ、落ち着いて!」 「ハッ……ァ! ゥ……」 「ユウヤ!」  だが、ユウヤの耳にはトオルの声など届かない。苦しげに浅い呼吸を繰り返すだけだ。  ユウヤが死ぬかも、という恐怖がトオルを襲う。  過呼吸の人間の対処などトオルは行ったことがない。だが、ドラマなどで見かける場面を思い出し、トオルは自分の口でユウヤの口を塞いだ。 「ハァ、ァ……、ハッ……アッ、ハッ……」  ユウヤの荒い呼吸がトオルの口の中に広がる。  シュウ達の事など気にしている暇はない。  必死に口を塞ぎ、ユウヤを落ち着かせる。 「ハッ……、フッ……、ウッ……」  ユウヤの呼吸が規則的になってきたのを確認し恐る恐る口を離す。  なるべくユウヤの視界にシュウ達の姿が見えないようにトオルはユウヤの顔に近い距離で優しく語り掛ける。 「ユウヤ、俺、わかる?」 「トオ、ル……」 「ゆっくり、呼吸して」  トオルの言葉に従い、ゆっくりとユウヤは呼吸をする。  ユウヤの目にはトオルが写っている。次第に瞳に光が戻ってくるのがわかる。 「トオル……」 「息、吐いて」  何度か深呼吸を繰り返しているうちにようやく落ち着いたのかユウヤは小さく笑みを見せた。 「あり、がとう」 「ユウヤ……」  落ち着きを取り戻したユウヤを見て、トオルも胸をなぜ下ろす。  その様子をアリユキが面白そうに言った。    「へぇ、なんかもう、そういう関係ってこと?」  ユウヤの顔がまた青くなる。守るように振り向いた先には面白そうに笑っているアリユキがいた。  シュウも、リクも驚いている。咄嗟のことで3人がいることをすっかり忘れていた。 ユウヤを守るよう、必死で睨みつける。 「なあ、元は自分の顔だろ? その顔にキスするってどんな気分?」 「……早く、ユウヤを開放しろ」  威嚇するように3人を睨んだ。  だが、今だトオルとユウヤは縛られたまま。自力で解くことも出来ないし、ハサミを使いたくてもそれはリクが持っている。  今のトオルの威嚇はこれから猫に甚振られる小さなネズミのような無駄な足掻きでしかない。  それをわかっているからこそ、アリユキも余裕があるのだ。 「お前はいいのかよ?」 「……俺は、好きにしていい。だから、ユウヤを」 「残念だけど、それはできないな。こいつ、ユウヤなんだろ? だったらこのままには出来ねえな」 「ッ! だけど、ユウヤはもう――ガッ!」    中身は違えど、ユウヤは自分だ。だから、今まで通り自分が相手をすると言いたかったが、それを言う前にリクに押し倒される。  そのまま口内をリクの舌で蹂躙された。歯列をなぞられ、舌先を強く吸われる感覚にトオルは目を見開く。
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