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決断2
「も、戻る……?」
「おい、リク」
リクはシュウの言葉を遮り話を続けた。
「なんでお前らが入れ替わったのかは分からないが、お前らの体が元に戻ればこんな面倒なことも考えなくていいだろう」
「……戻るって、どうやって」
「お前ら、そもそも何か戻る努力をしているのか?」
リクの言う通り、トオルとユウヤは互いの現状を保つ努力はしているものの、それ以外の戻るための努力というものはしていなかった。
なぜかというとそもそも2人ににそんな余裕はなかったからなのだが、ここは素直に言っておいたほうがいいと判断し素直に首を横に振る。
「できて、ないけど」
「じゃあまず戻れ。そしたら、もうユウヤには手を出さない。その代わり瀬名、お前が俺たちの相手をするんだ」
「おいリク。勝手に決めんな。その話だってシュウは良いって言ってないだろ」
「お前らがなんと言おうと、オレはこんな不可解な事認めたくないんだ。さっさと戻らせて元の生活に戻りたい」
リクの発言はシュウやアリユキには了承していないものだったがこれでユウヤを助け出すことができるのなら、トオルは頷くしかない。
何せこのままでは仮に戻ってもユウヤはこの3人に搾取され続けるのだから。
「……わかった。その代わり、戻ったら、ユウヤに手を出さないで欲しい」
「わかった」
「シュウ、約束する。これから、俺が3人の相手するよ。だから、ユウヤには手を出さないで」
トオルはシュウの目を真っ直ぐに見つめた。
シュウの瞳は冷静に判断する。
しばらくの押し問答の後、シュウは根負けしたかのようにため息を吐いた。
「……わかった」
「シュウ、いいのか?」
「別に、こちらとしては途中で顔が変わることがあるくらいだ。それに、現段階では戻れる算段もない」
「……ッ」
シュウの戻れる算段も無いと言った時、リクの表情が悔しげなものに変わる。だが今口を挟めばややこしい事になるのは分かっているのだろう。
特に口を挟むことはせずにシュウの決定に異を唱えることはしなかった。
ひとまず、ユウヤの身の安全は確保されたことにトオルは内心胸をなぜ下ろす。
「……トオル」
後ろから聞こえたか細い声。
振り返るとそこに居たのはユウヤだった。最低限の衣服を身に着けたユウヤが廊下でトオルたちの事を見ていた。
トオルはユウヤのところに駆け寄り3人から守るように抱きしめる。
「ユウヤ、起こしてごめん。体、どう?」
「……痛い」
やはり、先ほどの行為はなにも経験のないトオルの体に入っているユウヤにとっては負担のある物だったらしい。
よく見れば、服に見えている所だけでも様々な痣がある。それを、3人に見せたくなくてトオルはユウヤを抱く力を強くした。
「トオル、さっきの――」
「いいから。ユウヤ、上で休んでて」
「でも」
「お願い」
トオルの圧に根負けし、ユウヤは頷く。
それを見ていた3人が興味深そうに見ているのを気にしないふりをし、ユウヤが部屋に戻ったのを見届けたトオルは3人にまた向かい合う。
「お願いだから、今日は帰って。帰って――、ください」
トオルは3人の前に土下座をし、頭をこすり続けた。
3人はまさかトオルがそこまですると思わなかったのだろう。
驚いた視線で見ているのを構わず、トオルは土下座をし続ける。
「明日、いつものところに来い。ユウヤも一緒だ」
シュウの言葉にトオルは頷く。
その後、複数の椅子から立ち上がる音がした、それがトオルの後ろを通り過ぎ、ドアの閉まる音が聞こえた後――、トオルは土下座をやめゆっくりと立上がった。
目の前の机には、この近くで買ったらしき食べ物がいくつかおいてある。その中で封の開いていないペットボトルの茶を取り出し、ユウヤの元に戻った。
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