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過去
「で? トラックに撥ねられたのは何時くらいだ?」
リクに聞かれ、目の前に置かれたこのあたりの地図と時系列が書かれたノートを前にトオルは必死にトラックに撥ねられた日について思い出す。
確かあの時、学校から帰ってすぐ、新しく買ったゲームをした。ストーリーの初めから最後まで終わらせるのに日をまたぐ直前までかかり、その後腹が減ったトオルは気晴らしと晩飯がてら近所のコンビニまで歩いていくことにしたのだ。
コンビニまでは歩いて徒歩10分。行く道中でトラックに撥ねられたのだから――。
「大体、24時10分くらい」
「……」
隣のユウヤのもの言いたげな視線をトオルは気にしないふりをした。
「瀬名、けっこう不真面目な奴だったんだな」
アリユキの率直な感想にトオルの頭が沈む。
まさかこんな不真面目な生活を優等生たちの前で言うとは思わなかった。
成績上位者が大半のこの面子の中ではトオルの生活は一日切り取っただけでもその不真面目さがわかってしまう。
「この生活でいつ勉強してたんだ?」
「その、テスト前に必死に……」
「5,6日じゃ勉強しきれないだろう」
「赤点取らなきゃいいかなって……」
「…………」
シュウの目が大きく見開く。
こんなシュウ、ユウヤになってからでも見たことがない。本当に信じられないものをみるような目でトオルを見ている。
「そこまで強く言わない親だったんだろ。うちの母親もそんなもんだし」
「にしても、最低でも平均くらいはとっておくべきだろう。ここは私立だから学費がかかるし、それなりに偏差値のある高校でこんなに低くちゃ、行った意味がない」
アリユキの慰めもシュウの正論には全く意味がない。
うなだれるトオルを余所に、ノートにメモをしながらまとめているリクはトオルの前に聞いたユウヤの行動のメモを見比べ、苦々しい顔で呟く。
「特に関係ある行動はないな。お前ら、本当に入れ替わる前は関わりなかったのか?」
リクの問いにトオルとユウヤは同時に頷いた。
入れ替わる前のトオルとユウヤは互いに関わりのないクラスメイトだった。
トオルは独りぼっちだったし、ユウヤはクラスの人気者として過ごしてきた。
このまま3年になっても関わることはなかったと断言できる。
「瀬名の携帯にも特に連絡してる様子はないしな。あと瀬名、うなじがタイプなんだな」
「ーーッ!」
トオルの顔が一気に赤くなる。
トオルの携帯をチェックしていたアリユキがトオルの画像フォルダを見たのだ。
そこにはトオルの様々なプライベートが保存されている。道端にいた猫やゲームの画像、もちろんトオルが素敵だと思う女性の部位の画像も。
「ユウヤ……」
トオルは助けを求めるように隣のユウヤを見るが、このどうしようもない状況にユウヤは目を逸らす。
トオルも入れ替わった時にユウヤの携帯を見たように指紋認証で解除されるトオルの携帯の中身をユウヤは見てはいたのだろうが、言わないようにしていたユウヤのやさしさがアリユキの言葉により無になってしまった。
トオルをからかうように言ったアリユキをリクはにらみつける。
「関係ない話はするな。ユウヤ、瀬名、なにか心当たりないか? 他にお前らが入れ替わった原因について」
「……」
入れ替わった原因。
ユウヤはおそらくないだろう。だが、トオルには心当たりがあった。
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