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恐怖
「おっ、来たか」
リクと言い合いをしていたアリユキがトオル達を見つけ友達のように手をひらりとあげる。
そんなアリユキの軽薄な姿を見てリクのイラつきもピークになり思わず足が止まるユウヤを守るようにトオルは前に出た。
そんなトオル達を見て、アリユキは苦笑を浮かべ、リクに対してもうやめよう、といった風に両手を上げた。
「ほらリク、あいつらも怯えてるぜ?」
「……」
リクは無言のままトオル達を睨む。
怒りを感じるその瞳にトオルも思わず後ずさる。
「ま、待たせて、ごめんなさい。本当に」
「……まだ集合時間になってない」
そう言ったのはシュウだった。
シュウの様子は明らかに疲れがあった。どうやらそれなりの時間リクはこの シュウアリユキの2人とやり合っていたらしい。
最近のリクのおかしさはトオルだけではなくいつもつるんでいるシュウとアリユキの2人ですらも感じ取ってるのだろう。
この2人がお手上げなら、トオル達はどうすることもできない。
「さっさと事故現場行くぞ。瀬名、案内しろ」
「は、はい」
これ以上リクの機嫌を悪くしたくない。そう思ったトオルは後ろにいるユウヤに目配せをし、ユウヤはこくりと頷く。
「こ、こっちです……」
集合場所から歩いて数分。
そこから更に行くとトオルが行こうとしていたコンビニがある。
その道中にトラックに撥ねられた。トオルも行くのは事故以来である。
人通りはさらに多い。その理由がわかったのは吊り上げられた祭りお馴染みの提灯を見たからだ。
「……夏祭りだ」
「トオル、知らなかったの?」
トオルの呟いた言葉にユウヤが反応する。
夏祭りは毎年行われるもので、地元の人間ならば誰もが知っているものだ。毎年その案内がおそらくトオルの家に来ていたのでユウヤも知っていたのだろう。
「知っていたけど、今日だったことは忘れてた」
「お前が言ってた神社でやるんだろ? 終わったらそっち行こうぜ」
「……ああ、うん」
アリユキの言葉で先程の出来事が全て納得いった。
アリユキは昨日、明日がここの地域で夏祭りを行うことを知り、それに行くつもりでリクに行くなら明日にしようと言ったのである。
本来の雨が降るからという目的とは違う理由だったことにリクは怒り、その言い合いをトオル達が合流するまでやっていたのだろう。
「……なんてややこしい事を」
「瀬名、何か言ったか?」
「な、何でも!」
地獄耳のアリユキに聞かれて慌てて否定する。
アリユキはそれを追求することなくトオルの撥ねられた場所を興味深く見ている。
この道路は狭い。歩道は白線しか敷かれて居らず、車自体も1台しか通ることの無い道路だ。
トオル自身、もしかしたら誰も来ないだろうと歩道の線を超えて歩いていたかもしれない。きっとそれもトラックに撥ねられた原因の1つだ。
トラックの居眠りも悪いがフラフラと歩いてしまったトオルも同じくらい悪い。少々感慨深く道路を見つめているトオルをよそにリクはその辺り一帯を注意深く見ている。
シュウは興味なさそうに、ユウヤも形ばかりは見てはいるが跳ねられていた時点ではトオルだったため、あまり関心もなさそうだ。
「瀬名、何か変わったことは?」
「ない、と思う。そもそも、ここってそんな変わらないし」
「ほら言っただろリク。ここにこいつらが変わった痕跡なんて残ってないんだよ」
「……」
アリユキの言葉にさらにリクの機嫌が悪くなる。
正直、トオルとユウヤとしては地獄以外の何物でもない。
「リク、満足したか?」
「……」
シュウにも念押しするように言われ、リクは大きな舌打ちをしながら歩きだした。
が、向かったのは神社の方角ではない。
「リク? どこ向かうんだよ。祭り、行かないのか?」
「行かない。時間の無駄だ」
「こいつら戻る手がかりあるかもしれないけど」
「どうせ祭りのせいで探せないだろう。俺は独自で動く」
「ふうん、じゃ、俺たちは行ってるから」
苛立つリクをそのままに、アリユキはトオルの腕を引っ張る。
シュウもアリユキと同じ方向に向かう。必然的にユウヤもそれに続いた。
本当にリクは行かないのか、とトオルは後ろを振り向いた。
その時トオルは確かに聞こえたのだ。
リクの低く呟いた声が。
「……馬鹿に、しやがって」
リクの瞳はしっかりとトオルを見ていた。
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