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待ち行列
夏祭り。
トオルの地区で行われる祭りは小さなものではあるが出店などが出て、それなりに盛り上がる。
トオルも小さい頃は親と行き、わたあめなどを買ったものだ。
両親がトオルに構わなくなってからも1人で出かけ、たこ焼きやかき氷など祭りならではのものを買い楽しんだものだ。
そんな夏祭りにまさかシュウ達と共に来るとは思いもよらなかった。
「小さいけどそれなりにやってるじゃん。お、かき氷食べようぜ。ちょっと待ってろよ」
そういってアリユキはかき氷の出店へ向かう。
いきなりトオル達はシュウと3人にされどうしたら良いのか分からない。
ちらりとシュウの方を見ると、シュウはベンチに座り、興味深そうに祭りの様子を見ている。アリユキなら直ぐに話題を提供するだろうが、今のトオルとユウヤにそんなことできるはずがない。
早く戻って欲しいが、かき氷を売る列は混んでいる。アリユキが戻るにはそれなりの時間がかかるだろう。
「……この明かり」
「えっ!?」
「この灯りは、いつもあるのか?」
突然シュウに指さされた先を見ると、神社の街灯の間に吊り下げられている提灯があった。これは祭りの時などイベント毎に必ず付けられる装飾である。
シュウの言葉の意味が分からないが、トオルは言われた通りの答えを言う。
「祭りの時、だけだけど」
「この神社は、有名なのか?」
「えっ、いや、有名じゃないと思うけど」
「……」
ここはなんの変哲のない神社だ。有名なものでは無い。
シュウの言葉の意味がますます分からなくなる。
ユウヤに視線だけ送っても、ユウヤも発言の意図が分からないようで困った顔をしている。
「じゃあ、今度市の方の祭りにもあるのか?」
「ある、と思うけど」
「……そうか」
なにやらシュウは納得したかのように頷く。
どうやらトオルの回答で満足したらしい。提灯のことが気になった、ということだろうか。
まさか生まれてから一度も提灯を見たことがないわけではあるまい。
「おい! 誰か来てくれ!」
シュウが黙って5分程経った時、アリユキがようやくトオル達に声をかけた。
トオルはこの場から逃げるようにアリユキの元に向かう。
「瀬名、この2つ持ってくれよ」
アリユキが買ったかき氷は4つだった。
既に2つは手に持っている。そのうちのもう2つを持てと言っているのだ。
「瀬名、いちごでいいか?」
「え、俺?」
「ユウヤがいちご好きだから。もしかしてレモンの方がいいとか?」
そういうアリユキの持つかき氷は黄色と緑。おそらくレモン味とメロン味だろう。
トオルが持たされたのはいちご味が2つだが、まさかこれはトオルとユウヤのかき氷なのだろうか。
「あ、あの、後でお金――」
「いいって。ほら、さっさと戻るぞ」
なんでもないように言うアリユキを追うようにトオルはかき氷を持ってユウヤ達の前に戻ったユウヤはトオルの手に持つイチゴ味のかき氷を見てからアリユキの方を見る。
「ほら、シュウ。メロン」
「……人工甘味料」
「祭りのかき氷ってこんなもんだよ。ほら、溶ける前に食べろ」
アリユキベンチの空いているシュウの隣に座り、シュウにかき氷を渡す。
自分たちはどうすればいいのか、とトオルは両手にかき氷を持ちながらユウヤと目で会話する。
その様子をアリユキは不思議そうに見上げた。
「お前ら、食わないの?」
「あっ、えと、たべ、ます」
アリユキに言われトオルは片方のかき氷をユウヤに渡し、すぐさま自分のかき氷を口に入れる。
味は変わらない。甘く、いちごの味だ、
氷にシロップを入れただけのオーソドックスなかき氷が口の中に広がる。
おいしい。ユウヤしかいない環境だったら一夏の思い出にはしゃぎながら食べていたはずだ。
「シュウ、どうだよ?」
「……量が多い」
「こんなもんだって。氷溶けたらジュースみたいに飲めよ。あ、あんまり早く食べると頭痛くなるからゆっくりな」
「……」
シュウとアリユキの会話で何となくわかったことがある。
恐らく、シュウは祭りというものに行ったことがないのだ。
シュウはトオルでも知っているこの地元にある有名企業の一人息子ということもあり、今まで祭りに行くということなどをしてこなかったのだろう。
だからトオルに提灯のことについて聞いたりしたのだ。
一人納得したトオルは、目の前のユウヤの顔を見る。
だが、ユウヤのかき氷を食べる手は進んでいなかった。
その顔は歪んでいる。泣きそうになるのを堪えているような、そんな表情をしている。
「……ユウヤ?」
「なんでも、ない」
トオルに見られたと感じたユウヤは急いでかき氷を食べ始める。
それがあまりにも急だったのだろう。
ユウヤの顔は今度は苦痛に歪んでいる。そのまま手を額に当て、目をぎゅっと閉じた。
「ユウヤ、食べすぎだろ 」
「〜〜!」
ユウヤの頭痛を見てアリユキが笑う。
それにつられシュウも小さな笑みを見せた。
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