病室

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病室

 深夜の病院の待合室にて、シュウ、リク、アリユキの3人がいた。  3人の顔はどれも険しく、普段は明るいアリユキも不機嫌そうに眉根を歪ませている。  それを更に上に行くのがリクであり、離れた場所でシュウとアリユキを睨む様はまるで2人が敵だと言っているかのようだった。  そのリクの勢いに一瞬たじろいでしまうが、それでも追求するものはしなくてはならないとシュウはリクの方を向く。 「リク」 「……」 「なにか言うこと、ないか?」  シュウが言っているのは病院の処置室で眠っているトオルのことであった。  アリユキと祭を楽しんだ後、戻った時目にしたのは林の中で犯されているトオルと頭から血を流して倒れているユウヤの姿だった。  急いで行為を辞めさせ、どうにかいつものシュウの別宅に運んだ後、ユウヤはすぐに目覚めたものの、トオルの目は目覚めることは無かった。  さらに素人目でも分かるほどに足が腫れ、高熱も出てしまってはシュウ達もそのままにするという選択はとれず、病院に運ぶという事になり今に至っている。  幸い、足は骨折ではなくねん挫で熱も点滴を打てば入院の心配もないということだが、これがもし大きな怪我だったらシュウ達はタダでは居られなかった。  慎重なはずのリクらしくない行動だ。  さらにはシュウ達のことを眼鏡の奥底で憎悪の目線で見ている。この面倒な状況に内心ため息をついた。 「おい、リク。なにか言えよ」  リクの態度にアリユキもさすがに思うことがあったのだろう。  リクに詰め寄っている。そのアリユキも正常な状態と言えない。  シュウもそうだ。  誰しも、冷静ではない。 「……別に、いいだろ。骨は折れてない。それに、薬も与えた」 「そんな問題じゃねぇ!」  アリユキの怒鳴り声は響いた。  これが普通の病院だったらすぐさま注意されていたところだが、ここはリクの実家の病院だ。  息子だからということもあり、多少の無茶は目をつぶってもらえるがあくまで「多少」だ。 「……ここに運ぶのにも、最低限の人間しかあいつを見せていない。それに、今日ユウヤを診た医者は俺に弱みがある。あいつの事を親には喋らない」 「じゃあ、俺らはさっき会っただけのあの医者をただ信じればいいってことか?」  そんな無理な話はあるかとアリユキは付け加える。  それはシュウも同じ気持ちだった。  いくらリクが経営者の一人息子からの依頼と言えども頭から血を流し、足を捻挫させ、熱をだしている人間を前にその医者は黙っているだろうか。  普通の感覚なら、良心の呵責というものがあるだろう。 「金ならある」 「それで済まないかもしれないだろう」 「強く言っておく」 「だから、それが信用ならねぇんだよ!」  アリユキの言葉にリクは大きなため息をついた。  らちのあかない話だと思っているかのように。 「何を、恐れている?」 「はっ?」 「何を恐れているんだ?」  リクの視線ははアリユキの後ろにいるシュウにあった。  一瞬、腕組みの中に隠した手の震えを悟られたのかと思い、アリユキにバレないようにさらに強く握った。   「バレることを恐れているんだろう。優等生のお前が、同級生を子分に殴らせ、レイプしていた。それをお前の親が知ったらなんて言うか」 「ッ!  それは、リクの親も同じだろ」 「お前に聞いてない。シュウに言ってるんだ」  アリユキが言い返そうとしたところを遮るようにリクが言葉を発する。 「それとも、すべて、アリユキに押し付けるのか?」 「リク!」  アリユキの怒声が響く。  だが、その怒りの声をかき消すようにリクが笑い出す。  その様子にシュウもアリユキも呆気に取られる。  リクは十分に笑った後、シュウでも見たことがない醜悪な笑みを見せた。 「シュウ、よかったな。全て押し付けられる相手がいて。いつもこうしてきたんだろ? 都合が悪くなれば、アリユキを使って自分は見知らぬ顔。本当にいいご身分だな」 「……じゃあ、お前はどうなるんだ。ユウヤを使おうと言い出したのはお前だろう。お前だって、タダじゃ済まない」  シュウの苦し紛れの反論に、リクは笑った。 「俺だって同じだ。バレたら親父に縁を切られる。だから、ちゃんと考えているんだ。何も考えずに子分を使う馬鹿じゃない」 「――ッ!」  リクの言葉に我慢ができなくなったのはアリユキだった。  飛びかかるように胸ぐらを掴み、力任せに殴る。その拳をリクは避けることなく受け、倒れ馬乗りになったところでようやくシュウはアリユキの肩を掴んだ。 「やめろ!」 「シュウ、コイツが――!」 「こいつの口車にのされるな」  シュウの言葉にアリユキの動きが止まる。  振るった拳がゆっくりと下ろされ、元の位置に収まった。  静まった待合室の中で、誰のものかも分からない息遣いだけが響いている。 「……どけよ」  リクの言葉でアリユキはゆっくりと立ち上がった。その間をリクが這うように起き上がり、服についた埃を払うと、シュウを見上げた。 「シュウ、アリユキ、俺はお前達の企みを見抜いている」  企み。  なんの事なのか分からずシュウとアリユキはリクを見た。 「ユウヤと瀬名の事だ。アイツらが入れ替わったのは、嘘だ」 「何を、言って」 「アイツらは本当は入れ替わってない。お前らが俺を騙すために仕組んだことだ」 「は、はあ?」  理知的なリクの口からありえない言葉がでてアリユキは思わず聞き返す。  シュウもまさかの発言に次の言葉が出ず3人の間に先ほどとは違う奇妙な沈黙が漂う。  そうとは知らず、リクは言葉を続けた。 「お前らが、俺を陥れようとしているんだろう。あいつ等が入れ替わっているわけ、無い。人と人が、入れ替わっているなんて、そんなわけない」 「そんなの、俺だって――」 「お前らが仕組んだんだろう!?」  意味が、解らない。  ユウヤとトオルの入れ替わりなど、シュウもアリユキも知る由なかったものだ。  こんなこと、仕組めるはずもない。 「リク、何言ってんだ? 俺らが仕組んだって? 瀬名とユウヤを?」 「お前らが、お前らのせいなんだ。お前らが俺に嫉妬して――」 「リク、落ち着け」 「うるさい!!」  リクの服の中から出たのはナイフだった。  ナイフの刃先はまっすぐシュウ達に向けられている。  まさかこんなものを持っているとは思わず、シュウとアリユキも固まる。  明らかに敵意を持っているリクの行動。  そのリクにシュウもアリユキもどうすればいいか迷っていた。
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