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リク
「随分遅かったな」
切りそろえられた暗い髪に切れ長の瞳を囲うメガネ。
この生徒は反田陸。ユウヤはリクと呼んでいた。このリクもユウヤとトオルのクラスメイトの1人だ。
成績も見た目通りに良く、学年順位ではクラスで一番というクラスメイトだ。
だが、トオルのような友人では無い人間には元の性格なのか、身長の高さも相まって、話すときには威圧感あるしゃべり方をする。
トオルは同じクラスになって業務的な内容の会話を2,3回しか話したことがないが、それでもリクと話すと少し緊張する。
だが、その威圧は普段はそれなりに抑えられているものだったらしい。先ほどのアリユキ以上にリクは不機嫌そうにトオルをみている。
見下ろされる感覚は正直、怖い。
そんな固まるトオルの代わりに答えたのは、アリユキだった。
「ユウヤがなんかおかしくてさ 」
「おかしい?」
「俺の事を名字で言ったり、携帯のパスワード分からないとか」
「……大方、いつもの嘘だろ」
リクは冷たくそう言い放つ。
リクはユウヤの取り巻きのうちの一人で、他人には冷たいが気心しれた仲間内ではアリユキなどのお調子者に対して冷静にツッコミを入れる姿が多い。真面目だがアリユキのようなお調子者とも上手く合わせていける、そんな柔軟さを持っている印象だった。
が、今のリクのトオルの事をゴミでも見るかのような冷たい目線に、トオルの背筋は凍る。
身を縮こまらせたトオルをよそにアリユキがトオルに携帯を出させた。
「ほら、パスワード打ってみろよ」
トオルは促されるがまま、携帯画面を開き、4桁の暗証番号を入力する画面に指を置いた。震える指で数字をあてずっぽうに押していく。
ユウヤの携帯のパスワードなどわかるわけない。昨日も携帯のロックを解除しようと誕生日など当てずっぽうに打ったが結局解除はできなかった。
「……えっと」
「ほらな。俺としては昨日の休みも嘘じゃないと思うんだけど」
「いつも使ってる携帯のパスワードが分からない程の体調不良ってどういうことだ?」
リクはそう言い、トオルの持った携帯を奪った。
まさかの携帯を奪われるという自体にトオルは声を上げる。
「あっ!」
リクは手馴れた手つきでボタンを押す。
すぐに返すのかと思いきや、リクはそのままユウヤの携帯を手慣れた様子で弄り出す。
明らかに携帯の中身を見ている様子に固まる。
「……確かに、昨日は携帯を使っていないようだが」
「だろ?」
「な、なんで携帯、勝手に……」
「ユウヤ、どうした?」
明らかにおかしい。ユウヤの携帯を触ることにリクもアリユキも疑問を思っていない。
それがユウヤの周りでは普通なのか。少なくともクラスの中ではそんな姿見たことがない。
「……本当に、大丈夫か?」
アリユキの声色が少し柔らかいものに変わる。
さすがに目の前のユウヤの様子がおかしいと気が付いたのだろう。
だが、今のトオルはユウヤだ。あまりこの場をかき乱すのはよくないと、トオルは口をつぐむ。
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