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不穏な学校
いきなり携帯を見られるという行動から始まった一日はそのまま続いた。
シュウ、リク、アリユキの3人に囚われるように登校したトオルは教室でも3人に囲まれてしまった。
そのうち、他のクラスメイトが登校しその輪に加わってしまったせいで、さらにトオルが抜け出すのが困難になってしまった。
3人から抜け出せることになったのは朝のホームルーム後、担任の中村から職員室に来るようにとの呼び出しがあったからだ。
すぐに職員室に行ったトオルをみた中村はまず、昨日配ったプリントを渡した後、昨日連絡もなしに休んだことに対しての注意をした。
本当ならもう少し時間はかけるだろうに、それほどまでユウヤは教師からも信頼されているということなのだろう。仮にこれがトオルだったらもう二、三あったかもしれない。
トオルは話し終わったと背を向ける中村に声をかける。
「あの……、先生」
「ん? どうした?」
一瞬、トオルについて聞こうとしたが、やめた。
ホームルームで、トオルの姿はなかった。
当たり前だ。今、トオルはユウヤとして学校にいる。
だから姿がないのは当然だが、それにしてもクラスの誰一人トオルについて言及する者がいない。
トオルの机には花の1つも置かれた様子もない。まるで元からトオルという存在がいないほどに扱われているのだ。
確かにトオルは友達のいない地味な生徒だ。それにしてもーー、死んだクラスメイトに対して先生も周囲も冷たすぎる。
「……いえ、なんでもないです」
トオルについて聞きたくとも、変に不審がられるよりも実際に家に行った方がましだと思った。
「おう! ユウヤ」
職員室からでたトオルにシュウ、リク、アリユキの3人が待ち構える。
てっきり教室で待っているものだと思っていたトオルは驚きながらも、3人は当然とばかりに職員室から出たばかりのトオルを囲む。
それは傍から見ればさり気ない動作だが、中心にいるトオルからすれば話している声を外に漏らさない、そういった意図があるように感じた。
「何言われた?」
「……なんでも無い。プリントと、昨日、黙って休んだことのへの注意を少しだけ」
「ふうん」
質問をしたアリユキは相槌をしながらトオルではなく隣にいるシュウに視線を向ける。
しかし、シュウは特に反応せず無表情のままだ。それでもアリユキはシュウが満足したと思ったのか囲むのを辞め、再度教室に戻るためにトオルの腕を掴んだ。
引っ張られ、連行されている感覚。まるで囚人だ。
トオルだった頃には分からなかった異常さ。ユウヤはこれをどう思っていたのだろうか。
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