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そんな啓司との新婚生活は、半年を迎えたばかりだ。
平日の買い物は、先に仕事が終わる奈緒が行くのだが、今日はスーパーでおひとり様一パック限りの卵の特売をやっていた為、仕事帰りの啓司にも頼んだのだった。
「私が欲張ったのがいけなかったのかもね」
謝るタイミングを逃した奈緒は、先程の啓司に対する酷い言いぐさを詫びるように言った。
「そんなことないよ。だって今日は、おひとり様一パックだっただろ? 奈緒が一パックと、俺が一パックで別に欲張ってないじゃん」
そう言った啓司からは、奈緒の言葉を気にしている様子は全く感じられなかったが、奈緒の気分は何となく晴れない。
「まあ、そうだけど……」
けれど、そんなふうに考え過ぎてしまうのもまた、自分の悪い癖なのかもしれない、と、啓司と過ごすようになって思うようになっていた。
奈緒は未だに、啓司がイライラしたり腹を立てたり、思い悩んでいるところを見たことがなかったのだ。
それは、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが、啓司の脳内で人より多く分泌されていて、常に幸福感で満たされている為ではないか、と奈緒は思う。
「それに奈緒は、一家族様一パック限りの時は、ちゃんとルール守るだろ?」
「それは当たり前のことだよ」
スーパーで一家族様の文字を目にする度に、奈緒は啓司の顔を思い浮かべてしまう。
そして胸がキュンとして、特売卵が一パックしか買えないにもかかわらず、幸せな気持ちで満たされるのは、新婚あるあるだろうか。
「でも、中には素知らぬ顔して何度もレジに並んだりするモラルのない人もいるだろ? そんな人には罰が当たるかもな」
「そうかもしれないね。……じゃあ、卵が五個も割れちゃったのは、欲張った罰じゃなくて啓ちゃんのただの不注意ってことになっちゃうけど?」
奈緒が冗談ぽく言う。
「まあ、そういうことになるなぁ……」
苦笑いする啓司に、奈緒は白い歯を見せた。
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