prologue

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 22年経った今でもあの夜の事はよく覚えている。  雪がちらほらと降るクリスマスイブ、住み慣れた家を出て母に手を引かれながら夜の街を延々と歩いた。  「これからは二人で楽しく暮らそうね」  母は必死に涙を堪えながら不安になっている私に笑顔を向けた。  あの頃は私もまだ小さくて両親の間に何が起こっていたのかよくわからなかったけど、でももう二度と父に会うことはないのだろうと、それだけは分かっていた。    父はお調子者で冗談ばかり言うとても楽しい人だった。でもそんな彼だから人脈も広くいつも外を遊び歩いていた。毎月の給料も遊びで散財してしまい、足りないお金は母が働いてなんとか家計を支えていた。  でもそんな苦しい結婚生活は父の浮気という形で幕を閉じた。愛する人と一緒に幸せになるという母の夢は、結局粉々に砕け散ってしまい叶うことはなかった。  離婚後は母が仕事を掛け持ちしながら一人で私を育てた。  結婚したって幸せな人生があるとは限らない。女の子でも一人で生きていけるように強くなりなさい。  そう口癖のように私に言い聞かせ、その為にまずは良い学歴が必要だからと、苦しい家計の中からお金を捻出して塾や英会話学校に通わせてくれた。  そんな苦労をして育ててくれた母に応えようと私も必死に勉強した。そして某有名大学へ入学。卒業後はIT企業で働いている。
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