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のど仏を押さえられ、声が出せなくなる。繰り返し咳が出て、息も苦しい。
だけど僕は抵抗しなかったし、そのまま薄目で彼女を見続けた。これが最後かもしれないと思ったから。
それほど長い時間ではなかったと思う。
ふと、首を絞める力がゆるんだ。
僕は彼女に無抵抗だったけれど、壊されなかった。
彼女は僕を壊そうとしていたのに、笑っていなかった。
後ろ手にドアを開けた彼女は車から降り、散る花のようにそのまま去っていった。
首をさすりながら深呼吸をして、ポケットから花びらを取り出す。
桜の花びらは、ハートの形がゆがんでいる。先が細くて、割れていて。
両手の指でつまみ、捻るように力を入れると、驚くほど何の抵抗もなく、すっと2つに分かれた。
ごめんね。返事はない。
彼女とは、それきりだった。
桜の季節が来る度に、彼女の、顔を思い出す。
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