散りも積もりて

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   季節がめぐり、春が来た。  桜が咲いて、散る季節。    彼女は桜が好きだった。きれいなのに、すぐに散ってしまう儚さが好きなんだ、と。  休みを合わせた平日の朝に、人の少ない穴場の桜並木を歩く。 「写真、撮ってよ」  しだれ桜の下で、手を伸ばして花びらに触れている彼女。桜の花は、これから訪れるたくさんの人を喜ばせようと満開に咲いている。  下向きに咲く花を見上げ、桜と彼女はお互いに目を合わせている。澄ました表情のまま、彼女は僕に尋ねた。 「ねぇ、撮れた?」 「いや、実は動画で撮ってるんだ。今もまだ撮ってるよ」 「えー。動画なら動画って言ってよ、もー。それなら私、動いちゃうよ」  ぴしっ、という音。  彼女は伸ばした手を大きく振って、桜の枝を叩いた。かわいた音と共に枝は折れ、たくさんの花が散り、舞った。  あはははは、と笑う無邪気な声。  最低な笑顔が桜の下で咲いている。  動画を撮っていた僕のもとに駆け寄ってきた彼女は、上目遣いでこちらを見た。 「ねぇ、かわいく撮れた?」  僕は彼女の頭にぽんと手を置いて、髪についていた桜の花びらの一枚をつまみ、服のポケットにしまった。  
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