箱詰めのジェイク

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 男は何かを必死で叫んでいるようだが、ガラス越しでは声は一切聞こえない。そうこうしているうちに、彼の胴体にも、手足にも藍色の触手が巻き付いた。そして。 『――――――――ッ!!』  触手が、男の体を強烈な力で締め上げたのがわかった。手足があらぬ方に折れ曲がり、腹が潰れたせいで圧力に耐えきれなくなったのか、口から血と内臓の塊が飛び出していく。男はあまりの苦しみに泣き叫び、ぐちゃぐちゃに潰されながら触手の中に取り込まれていった。  触手はしばらく蠢いて男を咀嚼した後、なにかをポロポロと吐き出す。 ――あ、あれは……!  それは、白い卵だった。血まみれの卵を職員たちが拾い、奥の部屋へと持っていく。その光景を平然と見ていた研究員らしき男たちは、感心したようにこんな会話をしていたのだった。 「やはり、ポロッセオ星人の方々が一番好むのは人肉ですか。安定した調達方法を考える必要がありますね」 「そうだな。今はどこも卵不足だ。ニワトリも足りていない。ポロッセオ星人の方々の協力さえあれば、いくらでもニワトリの卵そっくりの食料を作り出せる。どうにか効率的な生産方法を探したいところだな」 「そういえば、この間卵に髪の毛がついていたとクレームがありましたよ。それと、血が残った卵もあったようです。もう少し丁寧に洗浄したほうがいいのでは?」 「確かにな。少しやり方を見直してみるか……」  悲鳴を上げなかった自分を、俺は心から褒めたい。叫んでいたら最後、俺もあの労働者たちと同じ末路を辿っていたはずなのだから。  そのあとどうやって家に帰ったか覚えていない。  確かなのは、俺がその日以降二度と“マルガイコーポ”の工場で仕事をしなかったこと。そして、マルガイコーポの卵を二度と口にできなかったことだろう。  マルガイコーポは、その後不正経理が発覚したことを契機に業績が傾いて、最終的には倒産した。  倒産したあの会社の養鶏場からは、ニワトリが一切見つからなかったとニュースになったらしい。ただし、同時にあのナントカ星人とかいう怪物も発見されなかったようだが。  あの異星人みたいなやつは、ひょっとしたら今でも地球にいるのかもしれない。  そして、今でもどこかの会社で卵を、あるいはそれ以外の食料を“生産”し続けているのかもしれなかった。そう思うと、俺は卵以外のものを食べるのも正直怖い。  なあ、君。君は本当に、信じられるのか?  眼の前にある普通の卵や野菜や肉が――人間を材料にしていない、なんて。  おかしな怪物の一部ではないなんて。  そんなこと、誰も保証してくれないってのにさ。
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