箱詰めのジェイク

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 ***  お金が美味しいからアルバイトしていたものの、このマルガイコーポって会社にはいくつか不思議な点があったのだった。  一つ目は、俺の仕事。  機械でパック詰めされた卵のうち、割れていたり汚れている卵が混じっているものは弾くように言われている――ということは先程語ったかと思うが。この“不具合品”で一番多いのが、卵の白い殻が赤茶色に汚れているというパターンなのだった。  最初は泥汚れかと思ったが、どうにも違う様子である。なんというか、まるで血のような汚れがついているのだ。  ぶっちゃけると、ニワトリってやつは排泄して汚れたお尻のまま卵を抱くことも少なくない。だから、卵の殻にはどうしてもニワトリのフンがついていることは珍しくないのだ。もちろん、そういうことが極力ないように殻もある程度洗浄するわけだけれど、けして丈夫ではない殻を洗剤でゴシゴシ一つずつ洗うわけにもいかない。どうしても限界はある。  だから俺も、それから料理をする人も、卵の殻に黄色っぽい汚れがついていたら“フンがちょっとついてるなー”くらいに思ってスルーするのではなかろうか。  だけど。 ――これ、何度見ても血、だよな?  時々、血っぽい汚れがあるというのならわかる。ニワトリが怪我をしていたのかな、くらいの感想だ。  でも、フンの汚れがほとんどないのに、血がついた卵がそれなりの頻度で紛れてくるのは意味がわからない。臭いを嗅いでも、やっばり生臭い血の臭いがするのだ。何故卵がこうも頻繁に血液で汚れて流れてくるのだろうか?  おかしいな、と思うのはこれだけではない。  二つ目は、隣の養鶏場。この養鶏場でも、別の日雇い作業員たちが雇われて作業を手伝っていると聞いている。時々日雇いっぽい人と敷地ですれ違うからだ。  養鶏場と工場は、同じ敷地内で建物が隣り合っている。  養鶏場で生まれた卵がそのまんまベルトコンベアで工場に流れてきて加工されるというわけだ。二つの建物は、内部で繋がっているのである。しかし。 ――養鶏場ってことは、たくさんの鶏を飼っているはずなんだけど。  俺の遠い親戚に、養鶏場を営んでいるおじいさんがいた。何度もその田舎に遊びに行ったから知っている。養鶏場というのは、どうしても近づくと鶏の独特な臭いがするものなのだ。  そして、鶏というのは鳴き声もなかなかうるさい。犬のように“鳴きやめ!”と命令して鳴き止んでくれるものでもない。何が言いたいのかといえば――俺達は隣の建物で作業していて、時に養鶏場のすぐ近くを通ることもあるにも関わらず、まったく鶏の臭いを嗅いだこともなければ鳴き声を聞いたこともないというのはだいぶ奇妙なことなのだ。  俺達は毎日、白い卵をパック詰めしている。
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