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散りかけの桜というものは、なぜこんなにも胸をざわつかせるのだろう。
国語教師の赤坂那由他はパイプ椅子に座り、開け放たれた体育館の大きな出入口から覗く、校庭の桜並木を見ていた。
満開の時期をとうに過ぎ、白い花弁に赤っぽい萼筒が混じる不恰好な並木。遠目には塗装が剥がれかけた古い壁画のようにも見える。
あまりにも、他者から求められるイメージが強すぎるせいだろう。この胸のざわめきの源は、憐れみでも恐れでもない。きっと不完全なものへの苛立ち、そしてそれに混じるわずかな優越感。
定められた時期に一斉に咲きほこり、そして一斉に散りゆくものへの厭忌。青春時代の苦々しい記憶をいつまでも胸に抱いたまま、今年もまた春を迎える。
一陣の風に、小さな花びらが宙を舞う。遊ぶように揺蕩って、視界から消えた。
今、この高校に赴任して2度目の入学式の真っ最中だ。
去年よりは、だいぶ肩肘を張らずに校長の長話に耳を傾けられるようになった。耳から流れ込んでくる言葉たちを受け取る皿は、年々小さくなっていくけれど。
真新しい制服に身を包んだ生徒たちは、高校生とはいえまだあどけなく見える。一様に行儀よく並べられたパイプ椅子に、私語ひとつ漏らすことなく座っている。いい意味で真面目な校風に合った生徒が毎年集まってくるのだ。
高校教師になって6年目。初めて赴任した高校を定例通り4年で異動となり、1年前、この高校へ赴任した。
まさか自分の出身校に勤めることになろうとは、教師になることを決意した頃には考えもしなかった。いや、考えないようにしていた。可能性がないわけではないのだから。
ついに何者にもなれず、何をも見つけることができなかったこの学校という場所に、教師として再び帰ってきた。選んだのは自分、おそらく、しがみついているのも自分だ。この場所でまた何かを探そうとでもいうのだろうか。
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