ホワイトの階調

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「いや、まぁ、暇というわけではないんですけどね」  やんわりとお断りのニュアンスを含ませたが、やはり茅野には通用しないらしい。   茅野はもう自分の要望が通ったとでもいうように安堵の表情を見せ、席を立ってこちらへ回り込んできた。  赤坂は諦めて、雑用くらいなら受けて立つ気持ちで隣へやってきた茅野に向きあった。仕方なく愛想笑いを浮かべる。 「えーと、どういったご用でしょう?」 (せめてややこしい案件はやめて〜)  赤坂の胸の内も知らず、茅野はわざとらしく困り顔を作ってから口を開いた。 「赤坂先生って、ここの卒業生でしたよね?」 「ええ、はい」  新任の時、そう自己紹介をした覚えがある。 「それで、科学部だったとか」  なんとなく触れられたくない過去の話題に、赤坂は言い訳めいた口調で答えた。 「入りたい部がなかったのでなんとなく入部していただけですよ?自分はゴリゴリの文系だったんで。ほら、うちの高校って今でも帰宅部は許可されないじゃないですか。科学部はある意味、部活難民の受け皿になっていたんです。顔も知らないような幽霊部員ばかりでしたし」  実際、赤坂は高校時代に科学部らしい活動をした覚えはない。科学室に文庫本を持ち込んで読書に耽っていただけだ。 「それで、科学部がどうかしたんですか?」 「いや、それが今年度から部員がたった1人になってしまったので同好会になることが決定しているんですが、うちの科学部ってそれなりに実績があったんですよ。科学オリンピックに選出されたり、有名大に進学する子も多くて。だから新入生が入部してくれれば来年度からまた部として認定しようかと思っていまして」 「はぁ、確かに昔から活動に熱心な生徒は成績優秀でしたね。今残ってる部員の子はどうなんですか?3年の小芝(こしば)君でしたっけ」 「小芝も優秀ではあるんですけどね……。まぁ言ってしまえばある分野に突出した秀才ということなんでしょうけど。赤坂先生もご覧になったでしょう、あのオリエンテーションの実験。あわや事件ですよ」  茅野は思い出したくないとでもいうように顔をしかめた。
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