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三股男は彼女たちの秘密に気付かない
「今日は楽しかったね。また来週会えるかな」
デートの終わりに彼女の詩織が言った。
「あー、ごめん。来週はちょっと」
「そっか。何か用事がある?」
「あ、ああ」
残念そうにしゅんとする詩織に、俺は出来るだけさりげなく笑ってみせる。
「友達と遊ぶ約束してて」
「ちょっとさみしい。でも、友達も大事にしなきゃだもんね」
「そうそう。そうなんだって。たまには、な」
「って、今日だって結構久しぶりだよ。でも、大輝君忙しいもんね。しょうがないよね」
「あ、あー。そうだったな」
「そうだよ。もっといっぱい会いたいのに」
詩織がちょっぴり目に涙を溜めている。
「ごめんな」
ちょっと重いと思うが、こういうしおらしいところも詩織の魅力だ。守りたくなる女の子というか。
「でも、またすぐ連絡はするから! 俺も楽しかったよ!」
「うん。あ、そっちの電車の方が先に来ちゃったね」
「じゃあ、またな」
「気を付けてね」
「詩織もな」
俺は電車に乗り込む。
詩織はまだ俺のことを見ている。
ドアが閉まる。
詩織が俺に手を振っている。
俺も軽く手を振り返した。
詩織はいつも、こうして最後まで俺のことを見送ってくれる。
そういうところをすごく可愛いと思う。
俺が思わず綻ばせてしまったせいか、詩織もにこっと笑ってくれた。
電車が動き出す。名残は惜しいが、すぐに詩織の姿は見えなくなる。
そして、俺はすぐにスマホを取り出した。
さあ、次の約束だ。
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