青色の卵

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青色の卵

 どうしよう!?  僕は困っていた。  この全体が青色の丸い球を渡された。  まあ、青一色ってわけじゃないんだけど、殆ど青色のまあ〜〜るい球。 ◇◇◇◇◇ 「良かった、良い子が居て」 「君にこのを託……すね」  そう言うと彼は倒れて動かなくなった。  地面には緑色の液体が流れていた。  僕達よりも6倍くらい頭の大きなそのヘンテコな生き物は、この狭い場所で息を引き取った。  今日は寄り道なんてしなきゃ良かった。  僕は後悔している。  僕は学校の帰り、嫌な事が有るといつも空き地へ行っていた。国語の時間作文の発表会で大恥をかいたのだ。空き地には友達と一緒に作った秘密基地が有る。到着するとそこに備えつけてあるライトを点け、鞄を置いた。今日は友達は皆塾なので、そこには僕しか居ないはずだった。  でも実際は奴が居た。  目玉は全体が真っ黒くて、何処を見ているのかも分からない。鼻は穴が二つ目の上に有った。ちょうど額の辺りだ。口はと言うと、有るには有るけど開く事がなかった。 「勝手にごめんなさい」  それがアイツが僕に最初に言ったセリフだった。 「別に良いよ、先客が居るとは思わんかったからびっくりしたけど」  そう僕は彼に返した。僕の場合は口を開けて言葉を伝えた。アイツの場合は何て表現すればいいのか分からないけど、直接脳に響く感じで声? みたいなのが聞こえた。そう、最初は幻聴だと思ったくらいだ。  良く見ると指が6本も有って、何か青い球を大事に握っていた。口は開けて居ないのに息がとても荒く。そんな全身の色がグレイ色の奇妙な奴が、僕らの秘密基地にうずくまっていた。 「もう私の時間は終わりそうです。失敗しました」 「えっ!?」  いきなり何を言いだすのかと思ったら、次のセリフが死ぬかもしれないと言う宣言だった。何を言ってるのかと思って少し近づくと、ピチョンと右足のスニーカーが水を踏んだような音を鳴らした。  (水漏れでもしたのだろうか)  違った。天井を見る限り雨漏り何てしていない。一体どう言うわけか? そう思っていると、また奴は言った。 「床を汚してごめんなさい」  しかもやはり口は一切開かずに。目にうっすらと泪を浮かべている。そんな悲しそうな申し訳なさそうな、そして苦しそうな顔を見て文句を言える人が果たしているのだろうか。僕は最初に彼に言った様に同じセリフをボソッと言うしかなかった。 「別にいいよ、僕しかいないし」  そう言ったけど、僕はその液体を見て流石に驚かずにはいられなかった。それは彼の身体から漏れ出して来ていたからだ。良く見ると、彼のお腹には穴が空いて居た。驚かさない様にゆっくりとペンライトでお腹の辺りを照らすと、それは奥の風景が透過されていた。その穴の下の部分からは緑色の液体が湧き水の様にゆっくりと流れ出ていた。 「それって君の血なの?」  身体から流れてるので当然そうなのだろうが、言葉で確かめずにはいられなかった。 「うん、敵に撃たれたんだ。逃げ切る事が出来無かった」  それから彼らはこの星から何万光年と離れた場所から来た事、この惑星を管理をしている等教えてくれた。そして彼は任務でこの星を守る為に来たけれど、この星を狙う敵に見つかり撃たれたのだという。どんな武器なのかは直接僕の脳へ情報を投影してくれた。上手くは描写は出来ないけれど、先端からペンライトの光を何十倍も強くしたものが、彼のお腹を一瞬で溶かした、そんな光景を脳内で見せられた。 「もう仲間も殺られてしまった。私と同じ姿をしている者にこれを託すのは危険だから、君にこれを預かって貰いたい」 「別にいいけど……」 「良かった、良い子が居て」 「君にこの星の卵を託……すね」  そして僕は困っていた。  彼は大事な事を忘れてる。星の卵と呼ぶこの球体。これは一体全体どう言う物なのか、僕には話さずに死んでしまったのだから。僕に分かる事は、これがとても大切なもので有る事。そして卵なのだから、落としたら割れる危険性が有ることそれだけだ。  僕は直感で彼のいる場所に長居するのは良くないと思い、スグに空き地を後にした。向かうのは当然我が家で、此処から走れば10分で着く。でも、今日は歩いて帰る事にした。もしつまづきでもしたら、この青色の卵を落として割ってしまうかもしれないから。  でも、正直走りたかった。だってもし彼を撃ち殺した大きな爬虫類の姿をした敵に遭遇する確率だって有るのだから。超巨大って訳ではないけれど、バスケットボールの選手くらいの背丈が有る蛇か蜥蜴に似た顔をした化け物。まん丸い目玉の真ん中にダイヤの形をした冷たい瞳を持っている。そんなのに出くわしたら、蛇に睨まれた蛙だ僕は。 この角を曲がれば家に着くのはもうスグだ。 「きゃああああ」 「え!? 嘘でしょ?」  細心の注意を払いながら歩いていたのに、僕は曲がり角でドーナツを咥えた女の子と激突した。ゴツンッとお互いのおでこをぶつけた後、眩暈がして僕は両手で握り締めていた青色の卵を空中へと放り投げていた。  どうしよう割れる!?  パンッと音が鳴る、地面に卵がぶつかった際に鳴った音だ。その音の後物凄く地面が揺れ出した。まるで大きな地震が起きたようだった。  げっ、僕から漏れ出た声。  あ・・・・・・ああ、卵が割れちゃったかもしれない。  大陸の揺れは暫くすると止まった。  僕は慌てて青色の卵を掴むと大事がないか確かめた。割れていなかった。でも、貰った時とは明らかに模様が違っていた。  青色の卵はもう青色の卵じゃ無くなっていたのだ。多分衝撃で表面が割れたのだろう? それは青一色から茶色の斑模様が混じる様に拡がって居た。  卵が割れていない事に安堵していたのだが、それだけでは済まなかった。家の直前で例の爬虫類に僕は遭遇してしまったのだ。あの菱形を細長くした眼が僕を捉えると、口を開いて話掛けてきた。 「おい、お前の持っているその球を見せろ!?」  見た目と同じで態度も横柄だ。言葉の切れ目に奇妙なシューとかヒューとか息漏れが聴こえた。僕は鞄に隠そうとしたが、細長い腕が伸びると、鱗だらけの三本指にグッと腕を掴まれた。  やばい、僕もあの彼の様に殺される。ぎゅっと眼を瞑ろうとしたが、それよりも怖さが勝って瞼が動かなかった。結果、僕は爬虫類の化け物をじっと見る形となった。彼は僕の手の平の球体を眺めた後、舌なめずりをし僕の腕を離した。  そして意味深な言葉を手首に付けた物へ向かって告げた。 「任務完了」と・・・・・・  すると空から立方体の浮遊物が降りて来ると、そのまま彼を吸収すると、瞬きをする前に雲の上へと消えて行った。それを見た後、驚きで二度目をパチパチさせずにはいられなかった。暫くボーっとしていたが、僕は青色の卵を鞄に入れると、家の中へ入って行った。僕は結果的に無事に卵を持ち帰る事が出来たので、一人であの爬虫類と同じセリフを呟いた。  ボソッ、任務完了。  でも、僕は彼に託された任務に失敗していた事を夕食の食卓で目にすることとなった。  僕も含め家族が驚いていた。いや、全世界が震撼していたに違いない。テレビ画面に映る映像を眼にし、そこで語るキャスターの言葉を聴き、自分の眼と耳を疑った。  僕らのこの星の大地がバラバラになったのだ。この世界は一つの大きな大地で構成されていた。その為、皆が平等で争いごとの無い平和な世界を保てた。  でも、今日僕らの……大陸は消滅した。  まるであの卵の様に、僕らの大地も斑模様のようにバラバラとなってしまった。
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