ぷろろーぐ 宇宙から来ました

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 短い曲を5曲ほど演奏した頃、陽が落ちてきた。今日もそろそろ終わりかな。次で今日は最後の曲にしようと思い、弾き始めてしばらく。 ふ、と小さな影が視界の端に映ったかと思うと、目の前にひとりの少女がちょこんと座っていた。  ふらふらと心もとない足取りでその場に座り込んだ彼女は、最初はかなりぐったりとした様子で、それでも、とても心地よさそうにじっと演奏を聴いていた。やがて俺の演奏が終わる頃にはいくらか元気になっているようにも見えたが…気のせいか。演奏を終えて、なんとなく彼女をボーっとみていると、彼女はゆっくりと目を開き、その大きな美しい瞳でまっすぐに俺を見つめた。  吸い込まれそうな瞳に、俺は思わず目をそらして、小さく会釈。で、帰ろうかと立ち上がり、楽器ケースに手を伸ばした時だった。 「えっ」 「…え?」 「や、やめちゃうのか?」 「えっと…今日はそろそろ、終わりにしようかと…」 「そう、なのか…」  なぜかすごくすごーく悲しそうな顔で、俺を見つめる。もっと聴きたたかった、とその目が訴えかけていた。 「…えーっと……、なんか弾こうか。もう一曲」 「い、いいのか…?」  その花のような笑顔に、思わず心臓が跳ねる。…いやいや、本当に美しくて可愛い子だけど、さすがにここまで年下の子にときめくのはどうなんだろう、俺。落ち着け。ごほん、とひとつ咳払いをして、楽器を構えて座り直す。 「リクエストある?何が聞きたいとか」  すると彼女はうーんと首を傾げる。 「あんまり詳しくないんだ。…まかせる」 「…じゃあ」  俺はとびきりスローなテンポで、夕焼け小焼けを弾いた。こういう曲なら、彼女も知ってるんじゃないかと思ったからだ。彼女は再び目を瞑り、心地よさそうに耳を傾けていた。…心なしか、その身体が光を帯びているように見えたが、目が疲れていたんだろう… 「ありがと」  曲が終わると、彼女はにこりと微笑んだ。こちらこそ聴いてくれてありがとうなんだが、彼女の美しい笑顔に心が洗われたのでまあいいかと深く考えるのをやめた。
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