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楽器を片付けている間も、彼女は俺をじっと見つめていた。…これって迷子…?いや、幼そうではあるけど、さすがに迷子って歳ではないような気も…。そんなに夜遅い訳ではないといっても、もう夜が更けていくばかりなのに、帰らなくていいんだろうか?
悶々と考えながらも帰り支度を整え、楽器を背負うと、知らないうちに俺の足元にまで近づいていた少女が、左腕の裾を引っ張る。
「どこかに行くのか?」
「どこかって…家に帰るんだよ」
「家…」
彼女はもう一度、うち、と言葉を咀嚼し、そして少し悲しそうな顔をした。そして、
「なあ…、俺も連れて行ってくれないか?」
は?
なんだって? 何を言ってるんだ、この子は。
「いやいや…、何を言ってんだよ。ダメだよ、君も自分のお家に帰らないと。おうちの人が心配しちゃうだろ」
俺が笑いながら言うと、彼女は更に表情を曇らせてしまう。
「…帰れるもんなら、俺だって帰りたいよ」
その言葉は冗談とは思えないトーンで俺の耳に届いた。それに彼女のこの表情、今にもその瞳から雫が零れ落ちてしまいそうだった。
「…えっと、家出?」
「…なわけないだろ」
「家の人、居ないのか?」
「というか…、どうやって帰ればいいか、わからない」
…だめだ、何一つ、全く、ちっとも理解できない。どういう状況なんだ?まさか、
「え、記憶喪失?」
彼女は溜息をついて、首を振る。
「…自分の生まれも育ちも名前も何もかも、全部ばっちり覚えてるよ」
「…ごめん、もうなにも思いつかないんだけど、どういう状況なのか教えてもらっていいかな…」
彼女はもう一度俺を正面から見つめ、そしてしっかりとした声で言った。
「…信じらんないかもしれないけど…、俺は、地球の外から、この星に不時着したんだ」
「…え?」
「…」
「…ごめん、本当にごめん。なんて?」
ここで、もう一つ大きなため息。
「…人間って…、自分の理解の範疇外のことを頑なに認めたがらないところがあるよな」
…なんかもう既に頭のキャパを超えているんだけど、彼女の泣きそうな瞳はとても冗談とか嘘には思えない。
「悪かったな…。君、何者?悪ふざけしてるわけじゃないんだろ?」
「俺は…、」
彼女はゆっくりと顔を上げ、そして、ふわりとその身体ごと宙に…浮いた。
「俺は、この地球から遠く離れた星の住人なんだ」
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