4 丸い音

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4 丸い音

 ハッとして振り返ると、そこには先生と真衣が息を切らして立っていた。 「先生……真衣……」 「ねえ、何で逃げたの?」 「え……っと……」 「いいんだ、ゆっくりで」  先生の優しい声で、ついに私は話し始めた。  ズルをして勝とうとしたこと。それは和菓子で買収しようとしたこと。アドン先生が考えてあげると言ってくれて、少しホッとしていたこと。  ありのままに話した。 「麗佳」  先生が、私の瞳をじっと見据えた。まるで睨みつけるかのように。  怒られるのか、と思って身構えたが、次に出てきた言葉は意外なものだった。 「今回の予選通過は、買収とは関係ないよ」 「……え?」 「麗佳の音は、一音一音が今までにないくらいキラキラ輝いていたよ」  嘘……。いや、先生が嘘をつくわけがない。 「そうなの!? アタシも聴きたかったァ!」 「アドン先生本人に聞いてごらん」  真衣の声を無視して、先生は言った。 「……はい!」  戻った会場は、人が減って静けさが戻りつつあった。その中に、私は目当ての人影を見つけて声を掛けた。 「あの……」 「ナニ?」  急にこっちを向いたので少し驚いたが、私は勇気を出して言った。 「今回の予選通過、私がお渡しした和菓子は関係ありますか……?」  そう聞くと、アドン先生は急に笑い出して言った。 「なわけないでショ~! ワタシはその程度でバイシュウされまセーン! アナタの音が美しかった、それだけデ~ス!」 「……ありがとうございます!」  結局、勝手な私の勘違いで勝手に落ち込んで勝手に泣いて勝手に最低だって思い込んでいただけだった。  そんな私、バカだ。  でも、あの後私は真衣とまた、心から笑った。囃し立てられた、約束通りに。 「じゃあ、二次予選に向けて練習しようか」  先生! 今は喜びを噛み締めているところなの!  でも、私は嬉しかった。楽しかった。 Fin
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