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「お父さん。何やってるの。あれだけ一人で出かけないでって言ったでしょう。それなのに今回は自分の孫と一緒だなんて……。見つかってよかった。もう帰るよ」
女性は、泣きながらそう言った。
それは、どこか聞き覚えのある声だった。
いつどこで聞いた声かは思い出せない。
女性は、私の腕を引っ張る。
「何をするんだ」
私は抵抗する。
「何をするんだじゃないでしょう。一人で帰れないくせに。娘の顔を忘れたの。この間は公園に行くと言って、坂降りたところの雑木林に入っちゃうし。本当にどうしたの」
女性はそう言って、私の腕を離そうとしなかった。
「この人は誰なんだ。娘と言ってるし……。娘の名前は何だったかな。私は何でここにいるのかな」
私は自問自答する。
何がなんだか分からない。
足に力が入らない。
私は地面に座り込んだ。
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