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「お義父さん。今度一緒に健康診断に行きましょう。娘の健康診断もありますから」
男性が、地面に座り込んだ男に話しかける。
地面に座り込んだ男は、何も反応しない。
「駄目だ。お父さんポカーンとしちゃってる。一緒に暮らしてるのに、娘の顔も孫の顔も忘れちゃったのかな」
女性がそう言うと、男性も
「僕の顔も忘れてるかな」
と言った。
「お父さんが定年退職した翌日、お母さんが突然倒れて、そのまま死んじゃったから、ショックが大きかったのかな」
女性は、まだ泣いていた。
「明日にでも病院へ行こう。僕の推測でしかないけど、お義父さん、認知症だと思う」
男性は、泣いている女性にそう話した。
女性は泣き止まない。
男性と女性の会話が途切れ、沈黙が続く。
地面に座り込んだ男は、立とうとしない。
「パパ、ママ、じいじ、お家に帰ろう」
男性に抱きついてる子供が、そう言った。
「そうね。こんなところにいても仕方ないわ。お父さん、一緒に帰ろう」
女性は涙を拭いて、地面に座り込んだ男の肩を持つ。
「僕も手伝うよ」
男性は女性と一緒に、地面に座り込んだ男の肩を持つ。
地面に座り込んだ男は、抵抗することなく立ってくれた。
「帰ろう」
子供はそう言って、男性のズボンを引っ張る。
男性と女性は首を縦に振り、四人は家に向かって歩き出した。
(完)
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