ランナーに刃をはわせ、モデルに筆を走らせる(仮題)

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「こんなの飛行機やない! 羽の生えたクロワッサンや!」  部長、その台詞を言いたかっただけですよね。しかしクロワッサン扱いには僕も心の中で同意しておこう。  言われた当の本人たる寿君は苦笑している。そんな彼の次なる製作物は同じアーミーの飛行戦力。三日月形のフォルムに幾何学模様とシンプルな武装が映える独特なデザインの航空機。  ちなみに先日までの輸送船は無事完成、部室内のショーケースに並べられて、僕らの目を楽しませている。  例によって本体と外装、砲台を接着せず、塗装を行っている。やっぱり見えなくなるところとかも塗装したくなるよねー。 「あ、そうじゃないです。単純に接着するとやりづらくなるだけで。装甲で覆われるところは流石に塗らないです。接着しづらくなるんで」  口に出てたか。失礼。  確かに塗料の上からプラセメントで接着は、ムクの時より具合がいまいちだからねえ。 「でも下地処理してるうちに、ついうっかり塗っちゃうのはよくある事ですよね」  ペイントあるある、接着する部分にまで下地色を塗ってしまう事など、数えきれない程やっている。  結局のところ、接着自体は出来てしまうので、つい大雑把になってしまうのだ。  ちなみに僕は今、プラスチック製の木を塗っていたりする。公式から出てる、立派な情景モデル。  しかし、どこからどう見ても木だ。地面に根を張り、幹が伸び、枝を張り、葉が生い茂る。うん、混じりっけなし、純度100%、立派な木のプラモデルだ。天地がひっくり返ろうと闇が光を飲み込もうと世界が終わろうと隊列が廃止されようとベースが四角から丸で統一されようと木以外の何物でもない。  そんな樹木オブ樹木のミニチュアの幹部分に、塗料の乗った筆を這わせていく。白色の下地処理を終えたモデルに塗料を乗せた時、モノトーンが僕の思った色に彩られていく。その瞬間を見るのが僕は本当に好きだ。小さな事だけど、脳内に七色の快感物質がぶわっと広がるような、えもいわれぬ気持ちよさ。  これだからミニチュアは止められない。組立も塗装も。  楽月部長と言えば、ずっと大規模な情景モデルを塗っている。小規模な情景が組み合わさって、大規模な採掘場になる奴だ。合計で諭吉さんが三枚ぐらい飛んでいくような……っていけない。  趣味においてお金関連の話題はご法度とまではいかないが、少々無粋というものだ。昔から「買わずに後悔するぐらいなら、買って後悔しろ」という名言もある。僕らはそれで、製品と同時に、いつでも組めて塗れる権限を手に入れているのだから。  それにしても、と僕は筆を動かしながら思う。  部長、ノートPCにイヤホンでY〇utubeで動画流しながら塗ってる。アレは本気の本気、大本気だ。自分の世界に入っておられる。  邪魔したら■されるな……寿君も集中してるし、僕も集中しよう。
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