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変態だ。
変態造形だ。
僕はパーツがびっしりと繋がったランナーをウットリと眺める。
組み立てる事でファンタジー物のプラスチック製ミニチュアモデル、ナイトオブデストラクションが完成するこれは、日本製のものとは違った意味でクオリティが変態的だ。
特にパーツ分割は神業、魔技と言っていいかもしれない。
マントとベースが一つのパーツなのはまだ序の口、爪先ほどの細さしかない炎状のエフェクトパーツだけで繋がっているパーツもある。
こりゃあ切り離す順番を注意しないと折れるぞ。
だから最高じゃないか。
早速作業に取り掛かろう。いや作業なんて味気ない言い方はよくないな。
幸い、この会社のモデルにはどれも組み立て説明書が同梱されている。ランナーだけ見て組もうとするなら芸術的分割に頭がパニックになっていたところだ。
長机の傍らに説明書を広げ、予め敷いておいた新聞紙の上にランナーを置く。机や椅子、床にプラスチック粉を散らすわけにはいかない。
ニッパーやナイフ、ラインクリーナーも机の上に準備してある。
手始めに切り離しをと、ニッパーを手に取った時ガラガラっと引き戸式の扉が開いた。
「ちゃーす……って、青島君だけかいな」
「今日は寿君用事があるので休みだそうです。お疲れ様です部長」
一瞬身構えたけど、挨拶なしに入ってくる人なんて楽月部長ぐらいだから別に硬くなる必要なんてなかった。
「部長、ひょっとしてまた足で開けたんですか」
「いやあ、両手塞がっとったし」
部長の両手には紙袋、まあそれなら仕方がない……じゃなくて。
「そんな事してると扉開かなくなっちゃいますよ」
「細かい事は気にしたらあかんよ。人生は足で戦うもんや」
違う、この人ただ単にめんどくさかっただけだ。
名前に楽がついてるからってそういう所で楽をするのはいかがなものか。
部室の扉が若干開きづらくなってるのってそれが理由なんじゃないのか。
ホントこの人自分の興味ある事と必要だと思った事以外はとことんものぐさだよなあ。見た目は黒髪ストレート眼鏡の正統派美少女で方言使いなのに。なんかもったいない。
「うわ、またけったいなもん組んでるね」
「僕もはじめはそう思ってましたけどね、もう慣れちゃいましたよ」
「今日はどこまでやれそう?」
「とりあえず組み立ては終わらせたいですね。できればサフまで」
「まあそんなもんやろなあ。あんまり無理せんといてや。打ち合わせしよう思うとったし」
「いつも手を動かしながらやってますよねそれ」
「違いない」
カラカラとした笑い声を響かせて、僕の真向い席に腰を下ろす楽月部長。
僕もランナーの一枚を手に取って、開始と行きますか。
ここは夢見高校の一角、情景模型・卓上遊戯研究会の部室。
他の部活と比べても広めの部室に書棚、塗料棚、今僕が使っている作業スペース、休憩スペースに冷蔵庫、模型展示用の棚、スプレーブースとかとかとか、一通りのものは完備している(まあスプレーベースは窓全開にしないと使えないけどね)。
まさにオタクの溜まり場。
ランナーからパーツを切り離す音は慎ましやか、ただ手応えが伝わる。
部長はいつの間にかブレザーを脱いでエプロンを装着、今日はペイントか。
白くて細い手が細筆を握り、モデルと筆洗いカップを往復する。
流石部長、相変わらず速いペースだ。負けていられないなと、ささやかなライバル心が燃える。
お互い、目の前のやるべきことだけをやる。これこれ、この一時だよ。
ちなみに僕は説明書通り、部品を一つ一つ切り離してはその都度バリ取りとパーティングラインの処理を行っていく。こういうのは人にもよると思うし、人の数だけ組み方、塗り方がある。
放課後の2時間弱、組み立て塗装は模型の神と語り合う聖なる時間、何人たりともこれを侵してはならない、という部長が決めた戒律らしきものが存在する(なお例外は存在する、打ち合わせとかヲタトークとか)。
僕も完全同意だ。
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