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第五話 「写真」
scene-1
「なんか緊張するね」と言う妹に「別に」と答えたが、本当はドキドキしていた。
懐かしく見上げる古い木造の二階建て。今は父が一人で住んでいるはずだ。
両親が離婚して1年。もう表札に私達の名前は無い。妹を連れて来てみたものの、自分でも何がしたいのか分からない‥
と、「お姉ちゃん!」押し殺した声が私を呼ぶ。郵便受けから引き抜いた妹の手に、小さな銀の鍵が握られていた。
scene-2
今も父は、昔のように郵便受けに鍵を入れているのだ。一人の家で。
「あんた、それ」「シー!」妹は私に向かって人差し指を立て、そっと鍵穴に鍵を差し込んだ。カチャッと音がして扉が開く‥
久し振りに目にする元我が家は、薄暗く静かだった。まるで時間が止まっているかのようだ。でも、私は瞬時にして胸が詰まった。
懐かしい父の匂いがしたからだ。
scene-3
離婚の原因を、母は詳しく話してくれない。私も高校生だ。察する気持ちはある。でも私は父が大好きだった。妹の手前平静を装っていたが、本当はずっと父に会いたかった。今日だって、もしかして会えるかも‥そんな期待があったのかもしれない。廊下、キッチン、切ないほど父の気配を感じる。その時、私を呼ぶ声がした。居間で妹が立ちつくしている。「なに?」言いかけて私は息を飲んだ。
scene-4
部屋の隅にあるキャビネット‥その上に、たくさんの写真立て。笑ったりちょっとすましたり、私と妹の顔が並んでいる。今年の初詣や先月あった私の入学式写真まであるのは‥そうか、母が送ってるんだ。
だったら一緒に住めばいいのに。大人ってやっぱり分からない!
私は妹の手を引き部屋を出た。鍵を閉めポストに戻し父の家を後にする。なんだか無性に泣けて涙が溢れる‥
だから、ごめん。「どうしたの?お姉ちゃん」の声に、今は返事が出来ない。
end
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