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第八話 「プロポーズ」
scene-1
今年は来るだろう‥そう読んでいた。
えっ?何がって?プロポーズに決まってるでしょ!五年付き合ったひとつ年上の彼。去年はお互いの両親にも紹介が済み、両家で二人の将来の話も話題に出始めた。でも、今年一月、私の誕生日スルー。ホワイトデー、スルー。私的には本命だったGWのハワイ旅行‥が、スルー。
おい!私は来年三十歳だぞ。
デッドラインと思ったクリスマスもスルーされた時、逆に私は不安になってきた。もしかして、結婚する気ないの?まさか、他に誰か好きな人でもできた?そう言えばここ数ヶ月、挙動がおかしい。
scene-2
彼を一言で言うと、とにかく豪快な人。
まず体が大きい。大学時代はラグビー部の主将だ。声もでかいし、よく食べてよく笑う。ずっと文系でインドア派の私とは正反対だ。だから、半ば強引に口説かれて付き合いはじめ、いつも彼に振り回されてきた。でも、私はそれが良かったのだ。俺について来い、的な頼もしさが好きだった‥で、なぜ言わぬ?なんで肝心な時に、男らしく決めに来ない?もう、だったら私から言っちゃうよ。
scene-3
意を決し、彼の部屋を訪ねた。“今日はちょっと大事な話がしたい”
いつもと雰囲気の違う私に、さすがに彼も身構える。私は言った。
「プロポースはいつしてもらえるの?」
「‥」
まさかの沈黙10分!
そして、彼が何か言った。え?なに?今の‥聞こえない。
「結婚‥‥して‥ください」
て、これ完璧に私が言わせた感じになってる。
でも次の瞬間、彼は上着のポケットから小さく光るリングを取り出し‥そして私の左手を引き寄せ薬指にはめた。え?なんで今‥持ってるの?
scene-4
つまりここ数ヶ月、ずっとプロポーズしようと指輪を持ち歩いていたが、怖くて言い出せなかったと。なるほど、それで挙動不審だったのか。
「なにそれ?なっさけなーい!」
って最初は思ったけど、なんだか無性に可笑しくなってきた。こんな彼を見るのは初めて。おっきな体の豪快さんが私に会うたびにおどおどして、結果、蚊の鳴くような声でプロポーズ‥可愛いじゃない!
私は不安げな表情で返事を待つ彼を、このままもうちょっと見ていたくなった。
end
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