15人が本棚に入れています
本棚に追加
私と佐藤博士
私の名前はエッグ。
世界的に有名な発明家である佐藤博士によって製作された、卵料理を作ることが専門の人型ロボットだ。
この『エッグ』というネーミングセンスで佐藤博士の人柄を少し理解してもらえるだろうが、彼は何事においても適当な男だ。
家事嫌いで掃除が適当、食事も適当、選ぶ服も適当……彼の適当さを具体的に挙げればきりがない。
しかし、自身の研究に関しては、凄まじい好奇心と集中力を発揮して取り組み、一切の妥協を許さない一面もある。
『エジソンを遥かに超える発明家』と評する専門家もいる。……らしいが、私は半信半疑だ。
彼から直接聞いた話だから多分、嘘だろう。
……ここで、私について話そう。見た目は佐藤博士と少し似ている。そこら辺の道を歩いていても誰も記憶に留めてくれなさそうな、地味な20代前半の青年っていうルックスだ。服装は地味な服を着るのが好きで、きっと佐藤博士に影響を受けたんだと思っている。
得意料理は厚焼き玉子で私以上に美味しく厚焼き玉子が作れる人間、ロボットはいないだろう。
もちろん、他の卵料理でも同じだ。
卵料理を限界まで美味しく完成させることこそが存在意義で、他の家事をこなすだけの一般的な家事ロボットとは違うんだという人並みのプライドと、自尊心を持っている。
この『プライド』と『自尊心』という機能を、なぜ私につけたのかと前に訊いたことがある。
そのとき佐藤博士は「えー? それ気になるー? 別に深い理由はないけどさ、何か人間っぽくて、いい感じの素敵なロボットになるかなって思ったから、ノリでプライドと自尊心機能つけただけだよー。やっぱ、重要じゃない? それに、もし卵料理が作れない状況下になったら役に立つと思うよ、プライドと自尊心を持っていた方が」と面倒そうにパソコンから私の方へと体を向け、欠伸をしながら答えた。
「そんな状況になりますかね? 私は体のすべての部分が頑丈ですけど……」
「僕と殴り合いの喧嘩をしたら二度と卵料理を作れない体になるんじゃない? ……あっ、それは私の方か……まあ、未来は予測不可能だから、わからないよ。……さあ、そんなことより飯にしようよ。家族みんなで一緒に食おうぜ」
「はい、そうしましょう。家族みんなで食べましょう。つまり、私とあなたの二人で」
「正確には、『一人と一体』だけど、細かい事はいいよ。今日も美味しい特上の電気を流してやるからな、エッグ君! では、さっそく厚焼き玉子を作ってくれたまえ」
「はいはい、わかりましたよ。少々お待ち下さいね」
という、いつもの日常の一部を切り取ったようなやり取りであったが、つまり、佐藤博士はノリで、私に万が一の事が起きた場合に備えてプライドと自尊心機能をつけたらしい。
私は、このとき佐藤博士の話を表面的に頭では納得していたのだが、深い意味を理解するまでには至らなかった。
卵料理を上手に作るだけのロボットで、知能面では人間と変わらない、いや少し劣っているかもしれないから仕方がない。
その当時、自分以上に知能が高い人間や頭脳を武器に活躍するロボットへの嫉妬心、悔しさを感じていて、自分の中にある汚い感情が嫌だった。
地味なスキルではなく、もっと魅力的なスキルを駆使して他の人間や感情をもつロボットに尊敬されたいという欲も同時にあり、私は自分を少し嫌いだった。
私は卵料理を作る能力以外は何をやっても上手くいかず、すべてのスキルにおいて他の誰よりも劣っている駄目な存在。
自尊心機能はあってもいいが、他者と比較して惨めな感情を引き起こしてしまうプライド機能など不要だと思うときもあった。
最初のコメントを投稿しよう!