12、鑑賞会のあと

1/1
前へ
/32ページ
次へ

12、鑑賞会のあと

「凄い! すごーいッ! ねえ、亜久人くん、見てた!? マイティ・フラッシュ、凄く強かったよ! 見た? 見てた?」 「……見てたよ、ずっと君の隣でね」  映像は全て終わったというのに、炎乃華の興奮は醒めやらないままだった。  ぶっ通しでビデオを見続け、とっくに昼ご飯の時間なんて過ぎているというのに、キャッキャと飛び回っている。こっちはお腹の虫がグーグー鳴き続けているんですが。 「必殺のフラッシュスパークライトニング、初めて映像で見られたわッ! ああやって両腕をクロスして発射するのね。私も今度、やってみようかなッ!」  フラッシュスパークライトニング、って単語重ねすぎだろ。まあ、マイティ・フラッシュの公式がそれなんだから仕方ないけど。  なにげに炎乃華は見たばかりの映像を真似して、胸の前で腕を交差させているけど、それ、マイティ・フレアに変身した状態だったらホントに光線でるから! オレに向けて構えるの、やめて。危ないから! 「あの、ダブルパンチって技もいいわよね! ねえねえ、亜久人くん、構えて。こうやって、こう……」  オレの身体を、フィギュアみたいに扱ってポーズとらせやがる。  あの……これさっき、敵怪人がやられてた時のポーズだよね? 「えい! ダブルパンチっ!」 「ぐはああッ!」  痛い! もろに鳩尾にブロー入った! 「この技、凄いわ! 顔とお腹に向けて、同時にパンチすることで防御不能になってるっ……! お母さん、すごい! 天才の発想よ!」 「いや……小学生くらいがフツーに考えそうだけど……」 「言ったなぁ、えい!」 「げはああッ!」  鳩尾に突き出された左のパンチを受け止めたら、その間に右ストレートがオレの頬にヒットしていた。  あの……炎乃華ちゃん。君、最近鍛えてるでしょ? 必死に空手の稽古とかしてるの、知ってるんだからな。  じゃれているつもりなんだろうが、ちゃんと腰の入ったパンチだから、痛いっての! 「あははは! いくぞぉ~、宇宙怪人ギガギドンッ! 悪の親玉は、このマイティ・フレアが倒してみせるんだからっ!」  ケラケラ笑いながら、ヒロインごっこにオレを巻き込んできやがる。  あんまりシャレになってないんだけど、気付いてないよね? 君が今遊んでいる相手、本当に侵略宇宙人なんですけどね。 「ありがとう」  不意に攻撃をやめてきた炎乃華は、パンチする代わりに両手でオレの手を握ってきた。  少しピンク色に頬を染めて、俯き加減で言葉を続ける。 「亜久人くん、本当にありがとう。お母さんが動いているところを、闘っているところを、見させてくれて……」 「……えっと、その……ボクはただ、探してもらっただけだから」 「亜久人くんに会えて、本当に私嬉しいの。よかったら、これからもずっと……友達でいて欲しいな」  友達。友達、か。  すげえ複雑な気持ちが、オレのなかで渦巻いた。それは、いつかオレが炎乃華を、マイティ・フレアを倒さなきゃいけない、って運命にあるだけが原因じゃない感情。  だけど胸の奥にチクリと刺す針のような痛みは覚えながらも……晴れやかな気持ちが、もっと大きく広がっているのも事実だった。  きっとオレは、笑っていたに違いなかった。オレの顔を見て、炎乃華がさらに顔を赤くしてニッコリとうなずく。 「あの、ね! お腹すいちゃったよね? 私、ケーキ作ったんだ!」 「え、ケーキ?」  声のトーンを変えた炎乃華は、大袈裟なくらい明るく言う。  突然出てきた大好物の言葉に、オレは思わず舌なめずりしそうになった。ヤバイ。マジか。ケーキ、それも炎乃華手作りなんて今口にしたら、オレ、幸せすぎてどうにかなるかも。 「うふふ、亜久人くんが甘いもの好きなの、ちゃんと知ってるんだから。こう見えても私、お菓子作りにはちょっとだけ自信あるのよ?」 「うへ、うへへ……ケーキ! 炎乃華ちゃんのケーキ……うへへへ!」  マズイぞ。ちょっとオレの地が出かかってる。  ていうか、完全におかしなヤツじゃあねーか! 「ちょっとだけ待っててね。最後の仕上げだけして、持ってくるから」  キッチンに向かった炎乃華を、オレは部屋でひとり待った。  イチゴショートか? チョコか? チーズケーキか? あるいはフルーツいっぱいの……うおお、どれでもいい! 生クリームの甘さが妄想で口の中に広がる~! たまらん!  ……ていうか……今、オレ、炎乃華の部屋でひとりきり、なのか……。  赤い布団がかけられた、ベッド。ビデオ視聴してた時、並んで座っていたあそこに、炎乃華は普段寝てるんだよな……。あのフカフカしたベッドに。  ……ダ、ダイブしてえ! 「ちょっと失礼するよ」 「うおおおおッ! お、おじさんッ!」  ぐおおおおッ、やべえええッ! 危なかったああああ!  オッサン、部屋に入る時はノックくらいしやがれッ! ていうか、娘の部屋に勝手に入ってくんじゃねえええ!
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加