3、フレアブラスター

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3、フレアブラスター

「……ふはッ、ふははは! 愚かな小娘め、オレ様の忠告をちゃんと聞かないからだッ! まったく、ひとが親切で言っているのに疑うかね、フツー? 死ね! 死んでしまえッ! オレと闘う前に敗れ去るとは、とんだ間抜けだ、お前は!」  まったく! なに考えてるんだ、この女はぁ~~ッ!  光線ダメだって言ったじゃん! なんでオレの優しさ無視するかな!? このノワルさんが親切にするの、珍しいんだぞッ! ゼルネラ星でも恐れられていたんだからなッ、オレは!  ムカついた。なんかすげームカついてた。  もういい。コイツのことはもういいや。ちょっと筋がいいから、凛とした視線で挑んでくるのが清々しいから、ほんのすこ~~しだけ気に入っていたけど、もう知らん。終わらせる。今日で最終回にしてやる。 マイティ・フレアは今日で終わりだ。コイツ倒して、オレはとっととこの星を去ってやる。 「ぐうっ!? ううっ……ぐううっ――っ!」  胸の中央を両手で押えながらも、マイティ・フレアは立ち上がった。  ……正直、ビビった。まさか二度と立てるなんて、思ってなかったからな。マナゲージに痛烈な一撃を喰らえば、全神経に灼熱にとけた針金を差し込まれているようなものだ。汗でびっしょりと濡れた彼女の顔が、苦痛の大きさを示している。  オレの罵倒に、マイティ・フレアは奮起したのかもしれなかった。誰もが唸る端正な美貌は、痛みに耐える、だけではない強い意志を漂わせて、大きく歪んでいた。こんなにくしゃくしゃな表情なのに、なおキレイだと不覚にも思ってしまう。  負けない。  切れ長の瞳が訴えてきやがる。フラフラのくせに。呻き声が漏れ続けているくせに、グッと睨みつけてくる。いや、睨むというか見つめる、なのか。コレは。  再び右腕を、すっと真っ直ぐ、ゼネットに向けてマイティ・フレアは突き出した。 「……バカめッ! 寝ていろッ! 今の貴様にゼネットは倒せんッ!」  オレの3度目の忠告を無視して、マイティ・フレアは真っ赤な炎の奔流を発射していた。  必殺のフレアブラスター。この身体でよくも、と驚く勢いの光線が、一直線にゼネットに叩き込まれる。  さすがに頑固な女も、懲りたのだろう。ギラギラと胸で輝く器官=アトラクターゲートへの直撃は避けている。ゼネットの下腹部、溶岩が冷えて固まったような黒い表皮に、深紅の熱光線を撃ち込んだ。  ガクガクと、漆黒の巨獣は揺れ動いた。断末魔に、震えるかのように。  マイティ・フレアは逆転の勝利を確信したことだろう。  一瞬、な。 「くうっ……! うぅ、ああぁっ! ……そ……んなっ……!?」  力の限りフレアブラスターを搾り出しながら、美少女の唇から漏れたのは、絶望の喘ぎであった。  気が付いたみたいだな。自分の敗北と、ヘタすれば死が……確定したことに。  テレビやネットの中継で観戦している連中にはどう映っているのか、わからないが……マイティ・フレアは勝利のために必殺光線を放ち続けているんじゃない。 中断すれば、すぐに逆襲を受ける。だから、己に残る全ての炎を撃ち尽くしている。そうするしかないんだ。照射を止めたら敗北に繋がるから。  ゼネットには光線の類いは一切通用しない。それは鏡のようなアトラクターゲート以外の場所に当てても、ムダってことだ。  あいつの溶岩みたいなゴツゴツの身体には、細かい溝がビッシリ埋まっている。黒い体表に撃ち込まれた光線はすべてその溝を通って集められ、結局アトラクターゲートに吸い込まれるのだ。  マイティ・フレアも途中で気付いただろう。どこに光線をヒットさせようがムダだってな。  だが、気付いた時には、事実上終わりってやつだ。すでにゼネットは十分炎のエネルギーを頂戴した後だった。彼女が光線をやめた瞬間、カウンターの火球が再びマナゲージを穿つだろう。  今の衰弱したマイティ・フレアでは、二度目の火球は到底耐えられるわけがない。命の源泉であるマナゲージを破壊され……ジ・エンドだ。  それがわかっているから、白銀と深紅のヒロインは炎の続く限り、フレアブラスターを撃ち込むしかなかった。放てば放つほど、カウンターの威力が増すとわかっていて。死の確率が高まると悟って、それでもなおわずかな奇跡に賭けて、必殺光線を射出し続けている。  だが……悪いな。ゼネットに、どれだけ光線を撃とうと、倒すのは不可能だ。  強い光を浴びせれば、より強い光が返るだけ。それが鏡ってもんだ。奇跡など、起きない。 「あ、ああ……っ! ……はあっ……はあっ……はあっ……!」  ピピピピピピ…………  マナゲージの赤色がほとんど消えかかり、キッチンタイマーのような音が鳴った。  ちょっとコミカルだけど、笑える場面じゃない。なにしろ命の警報だからな。マイティ・フレアの炎のエネルギーがゼロに近づくと、耳障りな警告音が鳴るようになっている。ちなみに過去7度の闘いで、警報が鳴ったのは初めてのことだ。  ……アホだな。ホントにアホだな、この女。  ムダに頑張るから、自分で自分の命を危険にさらしてやがる。マナゲージに最初に一発もらった時点で、勝利の可能性なんて無くなっていたのによー。なのに立ってくるから。早く諦めればいいのに、光線撃ち続けるから。  もはやマイティ・フレアに残された選択肢はふたつ。フレアブラスターを撃ち尽くしてエネルギー切れになるか。撃つのを止めて、火球に焼かれるか。  いずれにしろ、その先に待つのは地球を守るヒロインの敗北という結末だ。  ――ピィ――ッ…………‼ 「……あっ……‼」  可憐な声をひとつ漏らして、巨大な美少女の肢体が、ビクンと大きく痙攣する。  マナゲージから色も音も消えて、マイティ・フレアの右腕からは、炎の奔流が途絶えていた。  すっと、切れ長の瞳が閉じて、白銀と深紅のヒロインは、ゆっくり前に傾いていく……。  ――この瞬間を、オレは待っていた。 「フハハハッ! トドメだ、マイティ・フレアッ!」  高みの見物を決め込んでいたオレは(ネットでいつも「なんでアイツ黙ってみてんの?w」とコケにされているのは知ってるけど!)、猛然と走り出した。マイティ・フレアの背後を襲って。高々とジャンプすると、両足を揃えて長い黒髪の後頭部にキックを放つ。  ぐらりと、前のめりに沈むマイティ・フレア。すでに戦闘不能状態の彼女は、意識があるかどうかも定かではない。
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