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8、ゼルネラ星人の交渉
「で、なに? 日曜日に炎乃華ちゃん家で、一緒にビデオ鑑賞? いやあ~、あんなカワイイ子とデートとは羨ましいね~」
「デ、デートじゃねえよ!」
「しかも彼女のお部屋にたったふたりで……エロいね~。くれぐれも文秋砲には気をつけてよね。マイティ・フレアに彼氏がいた、なんてわかったら、人気暴落しちゃうからね~」
「なに想像してんだ、あんた!? あと彼氏じゃねーからッ! あくまでも友達、友達だからなッ! てゆーか、いつかは闘う敵同士だっての!」
ニヤニヤしやがって、このオッサン……ッ!
絶対、なにか勘違いしているが、オレと炎乃華が恋仲になるなど、有り得るわけがないのだ。なにしろオレの正体はゼルネラ星人で、彼女は地球を守る巨大ヒロイン。最終的には、オレたちは闘う運命って決まってる。でもって、オレが勝つとこまで確定済みだがな。
そりゃあ特撮の話でオレたちはよく盛り上がってるけど……それはあくまで共通の趣味があるから、ってだけの理由だ。炎乃華のことを詳細に調べるために、オレは特撮オタクのフリをして彼女に近づいたってわけさ。仲がいいのは、オレの作戦だからだよ。
好きとか嫌いとか、オレたちの間にはない。そんなことは当人であるオレ自身が一番よくわかってるさ。勘違いしちゃ、いけない。
「でもねえ~。君たち見ていると、とても敵同士だなんて思えないんだけどね~」
「おいおいマーくん、最初の交渉で話したこと、忘れてないよな?」
ドッカリと、現役総理大臣の正面に座りながら、オレは自分で淹れた緑茶をすすった。うん、やっぱり地球産のこの飲み物は、渋みが効いててかなりうまい。
「オレたちゼルネラ星人は強いヤツと闘うのが大好きだけど……星の征服とかなんとか、んなもんには興味ないんだっての。ホントはな。だって、面倒なんだもん」
強いヤツと闘う。自分こそが宇宙最強だと証明する。
それだけがオレたちゼルネラ星人のアイデンティティというか、目的といっていい。要するにだな、『オレ、つえーだろ! 宇宙一だぞ!』って言いたいだけ。
だけどさ、他の惑星にふらっと寄って、「おっす! オラ、ノワル! おめえの星で、一番つええヤツと闘いてえぞ!」とか希望しても通用するか? 無理でしょ。頭のわいたヤツがきた、と思われてシカトされるのが普通だよね。
「だからオレたちは、まず二択を迫るんだ。星を丸ごと殲滅されるのと、代表者一名との決闘、どっちがいい? って。それでも大体の星がまともに話を聞かないからさー、力見せつけるよね。マーくんにもオレの強さ、見せてやったよね?」
「も、もちろん覚えてるよ~。あれはエゲつなかったね~」
地球で一番威力がある、とかいうナントカ爆弾? わざわざ宇宙空間までいって、何発もわざと喰らってやったもんなー。あれはちょっと熱かったぜ。指先、ヤケドしちゃったもん。
「ゼルネラ星人の実力がわかったら、どの星だって素直になるからな。そこでようやく、本格的な交渉開始だ。星ごと消されたくなかったら、一番強いヤツを代表者に選べ、ってな。星の存亡を賭けてオレと闘えって」
どこでも全滅するよりは、まあ、ひとりを生贄的に差し出すよね。
随分回りくどいことをする、と思われるだろう。だがオレたちゼルネラ星人はさっきも言ったように自分が強いことを証明できればいいんだ。最強であることを宇宙中に自慢したいわけ。それだけでいい。無闇に殺したりするの、好きじゃないんだよねー。
だからその星で一番強いヤツと決闘して、勝ったらその星はオレのもん、ってことにさせてもらう。
とはいえ実際には何も変わらないんだけどね。さっきから言ってるけど、星を支配したって面倒なだけだぜ? 征服戦争なんて、バカバカしいったらありゃしない。
え、なに? そんなの納得できない? 名目上だけでも支配されるなんて気分が悪い? たった代表者ひとりが負けたくらいで、星全体の敗北になるのはおかしいって?
なら好きなだけ、何億人でもかかってくればいいよ。バトれるのは、こちとら大歓迎なんだからさ♪ その代わり、勢い余って殺しちゃっても文句ナシだぜ?
その星の命運を賭けて代表者一名と決闘する……というのは無駄な犠牲を出さないよう、オレたちゼルネラ星人が考案したシステムなのだ。
「それで、アッくんが指名してきたのが炎乃華ちゃん……マイティ・フレアだったんだよね~? あの子を代表者にするって」
「……最初はあんまり地球人が弱いからさー、適当にそのへんの熊でも倒してとっと帰ろうかとも思ったんだけどな。巨大ヒロインならオレの相手にもなんとかなるだろ? それとも炎乃華の代わりに誰かオレと闘う?」
ブンブンと、凄い勢いで内閣総理大臣は首を横に振った。
……こーゆーとこ、このオッサン、まったく躊躇ないよな。可憐なJKを宇宙人と闘わせておいてまったく恥じ入る素振りすら見せねえ……人柄の良さがウリ、なんて噂もなんか眉唾に思えてくるぜ。
「……まあいいや。他の国の首脳たちだって、マイティ・フレアが地球の代表者ってことに異論はないんだろ? じゃあやっぱり、最後にはオレはアイツを倒すぜ。宇宙最強の称号は、譲るわけにはいかないからな」
「我々としてはなるべく穏便にことを済ませてくれたらそれでいいよ~。そのために、アッくんの日常生活のサポートは政府が請け負っているんだからね~。防衛費で。別に炎乃華ちゃんを殺したりはしないんだよね~?」
「だ・か・らッ! 殺しはキライだって言ってるだろ。マイティ・フレアが負けを認めればそれで終わりだって」
「そうだよね~。炎乃華ちゃんを酷い目に遭わせるなんてアッくんにはできないよね~。それならいいんだ、せいぜい地球の生活を楽しんでちょうだいね~」
普段は丸い目を、マーくんは糸のように細めていた。なんだこの、僕にはすべてお見通しだよ、とでも言いたげな笑顔……気に入らないぜ。
マイティ・フレアが地球の命運をすべて担う、と決まったところで、オレも他のひとやモノに損害を出さないことを約束した。これで交渉成立。
毎度、採掘場で闘ったり、普段のオレがおとなしく地球人に紛れこんだりしているのは、すべてこの約束があったからだ。マイティ・フレア以外のところに被害が及ばないよう、気を遣っているのですよ。オレがお行儀よくしているからマーくんも協力的なわけやね。
本当は、オレは地球の制圧などやめて、すぐにこの星を去るつもりだった。前にも言ったけど、ゼルネラ星人にとってあまりに弱い異星人と闘うのは恥でしかない。強いヤツ、闘い甲斐のあるヤツがいない星はオレたちには無意味なのだ。
……だけど、炎乃華のことを知ったから考えを変えた。
マイティ・フラッシュという特撮ヒロインに憧れ、ついには自分自身も巨大ヒロインとなった少女のために、宇宙最強のオレは、もう少しこの星に滞在することにしたのだ――。
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