1:出会いは偶然だった

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 このゲームの世界では、プレイヤーキャラクターとなるアバターのことを『探求者』と呼ぶ。世界の謎を探求し、製作の妙技を探求し、まだ見ぬ採集物を探求し、現実では叶わない交友を探求する。探し求める者達の集まりだ。  世界各地の大きな街には探求者交流場という建物があり、更には、ギルド、という探求者の集団が存在する。ギルドは冒険の途中で誘われたり、交流場の宣伝貼り紙を見てギルドリーダーに申し出て許可をもらったりして、加入する。来る者拒まず去る者追わずの大規模ギルドもあれば、ゲーム内で友達になった者同士だけの少人数ギルド、果ては、ギルドに籍を置くことで様々な恩恵にあずかれるため、それが欲しくて一人でうち立てるギルドもある。 「私」ははじめ一ヶ月は全く興味が無くて、本当に独り(ソロ)で冒険をしていたのだが、ある日戦闘に疲れて交流場でぼうっとしていたら、灰色の狼顔のアバターに声をかけられた。 『初心者には、変なひとがしつこくつきまとったりするから、どこかのギルドに身を置いて、自分には仲間がついてます、って主張して自己防衛するのも大切だよ』  カクルラ、という名前の彼女に誘われ、彼女の所属するギルド『ソキウス(ラテン語で「仲間」という意味らしい)』に加入することにした。  ギルドに入ると、交流場にあるそれぞれの『ギルドルーム』に入ることができる。仲間達はそこで情報交換をしたり、他愛の無いおしゃべりをしたり、部屋の片隅でものづくりを始めたり、出来上がった家具で部屋を飾ったり、まあとにかく、自由に過ごせる。冒険や様々な活動でギルドポイントを貯めると、それを消費して、ギルド員全員が一定時間、経験値アップや能力値アップなどの恩恵を受けられる。なんというか、部活動をやっている気分になる。  丁度アーチャーからスナイパーになったところで、経験値の稼ぎ方に迷っていた「私」を、リーダーのザックをはじめとするメンバーは大歓迎してくれた。私も悪い気はしなかった。  でも最近、ルームに顔を出すのが、億劫になりつつある。  その原因は、今日も『ソキウス』のルームに不貞不貞しく居座っていた。
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