「死んでもらおうか」

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 異様な雰囲気を纏った月海は、目元に巻かれていた赤い布を掴む。その直後、背後に黒いモヤが現れ始めた、それは徐々に形を作り、一人のになっていく。 『やりますか、月海』 「あぁ、今回は特に気にする必要は無い。ムエン、お前が持つ悪魔の力を、俺に貸せ」 『承知』  ムエンと呼ばれた180センチある青年は、口の端を上げ白手を身につけた手を左右に広げ始めた。肩にかかってる黒いジャケットが風に吹かれ翻る。  床に足をつけ、革靴特有のコツッという音を鳴らす。その瞬間、月海の背中へとモヤと共に溶け込むように姿を消した。 「田端梨花(たばたりか)。貴様は、本当に死にたいと思っているか?」  掴んでいた赤い布を解き、風に舞う。月海はその場から足を踏み出し、そのまま梨花へと近づいていく。そんな彼の右半身は、徐々に黒く染っていった。  右の顔半分が黒く染まり、首も痣のようになっている。口元に浮かんでいる笑みは酷く歪んでおり、窪んでいる両眼も楽しそうに笑っているように見えた。  先程までとは違い、口調は荒く一人称が"俺"になっている。裏人格である月海が梨花の言葉によって目覚めてしまった。 「私は、もう……疲れた」  豹変した月海に気づかず、梨花は何も写さない瞳で彼を見上げた。そんな瞳にすい込めれるように月海は顔を下げ、見えていない視界で彼女を見る。その際、ポケットに入れていた右手を抜き出した。 「そうか。なら、俺が殺してやるよ。いいよな?」  取り出したのは、使い古されたカッターナイフ。持ち手には赤黒い物が付着しているが、刃は何度も変えているのか銀色に光り月海と梨花を映す。  彼の問いかけに、梨花は小さく。それにより、カッターナイフの刃を梨花の首筋に添える。  逃げようとしない彼女の行動を心からの肯定だと判断した月海は、添えたカッターナイフを迷うことなく動かし頸動脈を切った。  血が噴水のように溢れ、梨花は最初理解できず目を開き困惑した。だが、すぐに意識が無くなり始め、開かれた瞳は徐々に閉じかける。  その時、口が微かに動きを見せかすれた声を出した。雨音で消えた声だったが、月海には聞こえ、口元に笑みを浮かべ優しく息を吐く。
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