「死んでもらおうか」

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 3ーBには、月海が窓側に置かれている椅子に座り背もたれに寄りかかっている姿があった。  目元に巻かれていた赤い布は解かれ、窪んでいる目元が露となっている。  無の表情で、ただひたすらに夜空を見上げている。今は月を隠していた雲が流れ、月光が旧校舎を照らす。  ふと。夜空から目を離し、自身の右手に移した。今は何も握られていなく、黒く染ってもいない。ただ、細長い指が開かれている肌色の手。  何も見えないはずの窪んだ目で見下ろし、そっと拳を握る。そのまま顔を上げ、再度外を見た。 「……俺の視界を奪った奴。もう一人の俺の人生を狂わせた奴。俺を元凶。全てを見つけ出し、殺してやる」  抑揚がなく、感情が抜けているような口調で彼は、誰もいない教室で呟いた。  握られた拳は、そのまま力なく横へとたれる。 「誰を、利用しようとも──……」  ☆  次の日。暁音はいつものように学校へと向かっていた。  片手に本を持ち、周りなど一切気にせず目的である教室へと入る。教室内は賑わっており、いつもと変わらない。  笑い声が響き、活気のある教室内。そんな中、写真部の部員が部長を呼びにやってきた。 「"多沼"部長! 今日の部活なんですが……」 「はいはーい。今行くから待ってね!」  多沼部長と呼ばれた女子生徒が、廊下へと小走りで向かっていく。そんな彼女の背中を暁音はジィっと見る。だが、すぐに手に持っている本へと視線を落とした。 「しっかりと、」  その後は教室内に教師が入って来るまで個々で自由に行動し、朝のHRまでの時間を過ごした。
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