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夕飯は今日も卵料理だった。
オムレツ、ゆで卵を潰したサラダ。それに卵焼き。サラダにはトマトやらレタスやらが添えられているし、充分豪華だ。
「藤子…これ…」
「あら、嫌い?」
「いや」出かけた言葉を飲み込んでテーブルにつく「嬉しいよ」
元々俺は偏食だし、子供の頃なんかはそれこそ毎日好んで目玉焼きとか卵を焼いて甘くしたものを好んで食べていたぐらいだ。
問題はこの卵料理が、もう一ヶ月近く続いているということ。
朱色の箸でオムレツを割った。
「新鮮な卵を沢山貰ったのよ、わたしの叔父が大きな養鶏場を経営してるの。前に言ったわよね?それがうちの地元で鳥に感染するウイルスが流行ったとかで、叔父さんの養鶏場の鶏も全て殺処分よ、大変よねぇ。…卵も余って…ああ、心配しないで、全部ちゃんと調理して冷凍してあるから、それ」
「そういえばそんなニュースもあったな」
「ああ、そうそう」
キッチンから銀色のトレーにプリンを乗せて俺の前に置いた藤子は、にっこりと微笑んで今しがたきた場所を指さした「キッチンにある卵…一つは割らないでね、色付きのやつ。他は好きに取ってもいいけど」
「色付き?」
初めて聞いた。
昨日冷蔵庫を開けた時は3パックほどの卵が、ビールの缶を挟むようにして置かれていた。
「たまごって冷凍出来るっけ」
「大丈夫よ、新鮮だから」
妻の言い方になんとなく違和感はあるものの、不味くはない。オムレツはふわふわして美味い。
食べ終わって、キッチンに食器を持っていくと藤子は卵を一つ手にとってしげしげと眺めていた。
たまご、たまご、たまご。
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