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コールドスリープという技術がある。
人体冷凍保存。現代の医学では完治不可能となった身体を凍らせて保存し、未来の技術に望みを託して保管しておく術だ。
この部屋一面の、カプセルの一つ一つに凍結した人体があるのかと思うとゾッとするような気もする。
「…死ぬ直前ならまだしも、いや、そもそもこの解凍が適ったとして、かつ意識があるとして、それが凍らせた本人であるという保証は?どこにもないんですよね?だって一度は…」
「これはつまり非情な現実から逃避する為の手段なんだよ。遥か先の未来で、また生きられる…そういう希望を持ちながら居なくなった人々のね」
博士はそう言って、両脇の銀色の大きなカプセルを左右順繰りに見ながらゆっくり長い廊下を進んで行く。俺もそれに続いて靴を鳴らした。
「そう、これは夢のたまご…とでも言っておこうか」
たまご、たまご、たまご。
両側に一体何人眠っているのか。一体いつ目覚めるのか。
銀色のそれは、さながら列をなした棺のようにも見えた。
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