【二〇〇三年】――優架 十四歳

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真面目な美月ちゃんが何か批難するのでは、と私は危ぶんだが、美月ちゃんは何もそのようなことは言わず、真剣なまなざしで場に加わっていた。 「ただ、でたらめに持ってきたから、暗証番号がわからない」 村瀬がそう言って、美月ちゃんを見た。 「嶋口さん。――何か、いい手を思いつく? たぶん三回くらい間違えると、ロックがかかってしまうと思う。だから、できたら一発で当てたい」 美月ちゃんはあごに細い指をあてると、うーん、と言った。 「なにかの記念日に設定している人は多いかもね。お父様とお母様の結婚記念日だとか、家族の誕生日だとか――。村瀬くんの誕生日は、いつ?」 「俺は、六月七日」 「じゃあ、0607とかね」 私は内心、息子の誕生日に設定した暗証番号を、ほかならぬ息子自身に裏切られて解除されてしまったら、村瀬の父はすごくショックだろうなあと感じた。 「ただ――俺の父が、そんなにわかりやすい番号を設定するとは、考えにくいんだ。それだったら、誰にでも比較的解除されやすいじゃない」 「そうだよね」 美月ちゃんが突然口を開いた。 「たとえば、半年そこからずらしてみたら?」 「――え?」 美月ちゃんの言っている事がわからなくて、みんな一斉にきょとんとする。最初に理解したのは村瀬だった。 「そうか、半年後は十二月七日――つまり、1207ってこと」 とたん、そこまで聞いた華がいきなり立ち上がったので全員ぎょっとした。華が強い口調で言い捨てる。 「――やっぱり親のカードを盗ってまで、逃げたいとこなんてないし。正直渉くんを見損なったっ」 感情をむきだしにした華の声に、村瀬は顔面蒼白になった。
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