【二〇二三年】――優架 三十四歳

2/8
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
時刻、夜の十一時半。夕食の洗い物を終え、タオルで手を拭くために振り返った拍子に、ダイニングテーブルの上に置いてある紙箱がふたつ、目に入った。銀色地に小花模様の包装紙にくるまれ、ネイビーのリボンで十字に結ばれた、チョコレートの小箱たち。 これは娘の誌穂里と一緒に、ショッピングモールの催事場で買ったものだ。バレンタインデーは明日。ひとつはパパに、もうひとつはクラスメイトの田上くんに。そう聞いている。 誌穂里はいま、八歳だ。四月からは小学三年生になる。娘を産んだのはつい昨日のことのように思い出せるのに、それから月日はあっという間に過ぎた。男の子にチョコを渡したいなどと言い出す日がもう来たとは、びっくりしてしまう。 まだ小学生なのだから、一緒に手作りも考えないわけではなかったが、正直衛生面では不安があるし、渡される田上くんの母親側にしても、市販のもののほうが安心するだろうと思った。それに、現在フルタイム勤務の私なので、悠長に誌穂里とキッチンに立つ余裕がないというのも、もう一つの本音だ。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!