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「決意は、わかったよ。――私に、できることある?」
村瀬が「じゃあ」と私に、こっそりと耳打ちした。私は了解して、うなずく。村瀬は続けた。
「それと、里見には話さないでくれるかな。――あいつ、性格がすげえ真面目だから、俺の父の味方をするような気がする。だから、奥田さんと俺たちだけの秘密ね」
私は「わかった」と言って、モールの壁掛け時計を見た。もうすぐ、帰らなくてはならない。私は必死に頭をめぐらせ、村瀬の顔を見つめた。
「村瀬くん。一人にだけ、話してもいいかな。もしかしたら、協力してもらえる子がいるかもしれない」
脳裏に浮かんでいたのは、美月ちゃんだった。彼女は賢いし、信頼できる。何か、いい知恵が借りられるかもしれない。そのことを説明すると、村瀬は「お願いしたい」と私に頭を下げた。華に対して必死になっている村瀬の紅潮した頬はとても人間らしく、もう空気だけ詰まった人形のようには見えなかった。
村瀬と華の脱走劇の計画日は、十二月二十四日と決まった。村瀬の両親はその晩、バレエのクリスマス公演に夫婦で行くそうだ。村瀬は「自分も公演に誘われたけど、友達と受験直前合宿すると言って断った」と不敵な笑みを浮かべた。
私は「母は今日友人のところに行っていないし、父は二十二時近くにならないと帰らないから」と、イブの夕方自宅に村瀬、華、美月ちゃんを招いた。脱走計画の作戦会議のつもりだった。
村瀬は、おもむろに懐から財布を出した。
「大阪の先生のところまで行くためにも、そのあとにも、とにかく金が要ると思って。一応、自分の小遣いはある程度持ってきてるんだけど、それじゃ心もとないかもと思って、父のキャッシュードを一枚拝借してきた。父は、カードいっぱい持ってるから、たぶん一枚くらいなくなってもわかんないはず」と告げた。
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