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4.淋しいときは、
翌朝、いつもよりずいぶん早く目が覚めたのは、キッチンから音が聞こえたからだろう。
すでに身支度をした母親は、昨夜の食べ残しで朝食を用意してくれていた。
「食パンがあったから、ポテトサラダでサンドイッチを作ってあるわ」「お弁当箱が見当たらないから、唐揚げはおむすびにしたのよ」
昨日の言い争いなど、なかったような顔をしているが、寝不足は隠せていない。言い返された言葉を気にしているのだろうと、敬梧にもわかった。
「ありがとう」
ごめん、とは言わないと決めている。
「コーヒーがさめないうちに、食べてしまいなさい。野菜がたくさん入ったおいしいサラダだったわ」
「俺、まだまだだけど、頑張ろうって思ってる。仕事も、ほかのことも。だから……」
「あなたが、自堕落な生活で具合を悪くするような人間でないことは、私が一番わかってるわ」
絢子は、自分自身に言い聞かせているようだった。
「私が、そう躾けてきたんですものね。とっくに手は離れているのね」
敬梧は黙ってコーヒーを飲んだ。
母親を駅へと送るため、車に乗り込もうとした敬梧は、駐車場から二階の窓を見あげた。休みの日などは、ベランダ越しに手を振ってくれる慧を目で探すが、今朝はカーテンも閉じられたままだった。
「GW中は僕も色々予定あるから、明けたらまた、ご飯食べよう」
昼休みに確認したスマートフォンには、慧からのメッセージが入っていた。そして、それから約一週間、慧はアパートに帰ってこなかった。
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