4.淋しいときは、

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 大型連休最後の日曜日、敬梧は仕事を終えると、急いで慧の部屋へ向かった。 「敬梧、おかえり。おつかれさま」 「慧さんこそ、おかえりなさい」 「僕は、遊びまわってたけどね」  連休中はお休みする子もいるから、園長先生が休ませてくれたそうだ。実家に戻り、斉木夫婦とも遊んできた、と嬉しそうに話す顔に、憂いは見えなかった。  敬梧は自分の取り越し苦労だったかと、内心ほっとする。母親が慧に向けた目には、猜疑心がありありと見えていたし、感情的に大きな声を出してしまったので聞こえていたかも、と心配していたのだ。 「明日からは通常通りなんですよね」 「うん、休み明けは登園したがらない子もいるから、ちょっと不安」  笑みをうかべた慧の顔を見た瞬間、敬梧はここ数日の間、自分が抱えていた感情が『淋しい』だったことに気づいた。 「慧さんの笑顔が見れなくて、俺は淋しかったんだ」  家と職場の往復は、これまでと何ら変わらないはずなのに、晴れない気分を持て余していた。コンビニで、ふだん一人では飲まないお酒まで買ったほどだ。 「敬梧は? 忙しかったんでしょ?」  尋ねながらも、折りたたみテーブルに食事を並べている。「気合い入りすぎちゃった」というメニューは、敬梧の手のひらくらいある特大ハンバーグだ。 「すごい! こんなの初めて見ました」 「考え事しながら、びったんびったんしてたら、こんなになった」 「え……」  やはり慧も気にしていたのかと、敬梧の顔が曇る。 「あ、怒ってるとかそんなんじゃないから。お腹減ってるでしょ? 食べながら話そう」
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