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ハンバーグは玉ねぎの甘みと肉の旨味が感じられ、とてもおいしい。しかし、敬梧は何を言われるのか気になってしまい、味わうことができなかった。
「敬梧も、最初は僕を女性だと思った?」
コンビニで偶然会った日に、斉木が「あいつは勘違い野郎だから気をつけろ」と忠告したらしい。敬梧を睨みつけていたのはそういうことだったのか、と納得する。
慧の質問に、自分の胸のうちを伝えるための言葉を探す。
「母が失礼な態度をとってしまってすみません。俺は……実は、公園で会ったときに『さとい先生』でインプットされたみたいで、よくわからなかったんです」
かわいらしい女性だが、身のこなしなどはちょっと男性的。それが、冷静になって思い返した印象だった。
「斉木さんから、男だからなって言われたとき、妙に納得しちゃって。だよなぁって思いました」
「そうだったんだ」慧が少し安堵したようだ。
「嫌な感じはしなかった?」
「全然。むしろかわいいなんて思うの、失礼かなって、気にしてました」
敬梧の正直すぎる答えに、慧の声が少しうわずる。
「僕は背も低いし、こんな見た目だから、しょっちゅう女の子に間違われてたよ」
だから、敬梧のお母さんみたいな反応には慣れてるんだ、とこともなげに言った。
「でも男だってわかったあとの態度は、いろいろだった」
慧は、父親からぱっちりとした二重の瞳とふわふわとした天然パーマの髪質、母親から色白の肌を受け継いだ。小さな赤いくちびるをした赤ん坊の写真は、本人ですら、女の子みたいだと思うほどだ。
「うんと小さいうちは気にならなくても、そのうちに、なんとなく男の子と女の子って違いがでてくるよね。好きなものとか遊び方とかいろんなことで」
なんとなく違う、という表現はよくわかる。敬梧は活発な男の子ではなかったが、自分からおままごとをやりたいとは思わなかった。なぜか参加させられたことは何度もあったのだが。
「僕は歌ったり踊ったりが大好きで、幼稚園くらいのときもしょっちゅう女の子と遊んでた。でもそれは、女の子と遊びたいんじゃなくて、一緒に踊れる子と遊んでいたいだけだった」
好きなものの違いでグループができるのは、敬梧も体験したことがある。
「それを見て、仲間に入ってくる男の子も女の子もいたし、おかしいって言う子もいた。僕にはよくわからなかった」
慧は今もそうだが、当時から赤やオレンジといった色の洋服を好んで着ていたらしい。そのことも男の子グループから外れていたのかも、と笑う。
「両親は、僕の好きにさせてくれたからね」
小学生になると、大流行していた女性アイドルのダンスを真似るようになった。ヒールを履いて踊る3人組に憧れ「あの靴がほしい」とねだったときも「パンプスは無理だからブーツにしなさい」と答えたそうだ。
仲のよい女の子たちとすごく練習して、それっぽく踊れるようになった慧を「カッコいい」と言ってくれる人がいる反面、「男の子なのに女の子のダンスをしている」と言う人がいた。
自分のことを名前で呼ぶと「男の子は、ぼくって言うんだよ」と指摘された。
慧は、両親に尋ねたそうだ。
「どうして、友だちに「へんなの」って言われるの?」
ふたりは、慧の目をまっすぐに見て「ちっとも変ではないし、他人に迷惑をかけたり傷つけたりしなければ、気にすることはない」と教えてくれた。
「すごく安心した」
そのときの安堵感を思いだして、慧がほっとした表情をみせる。
それからは、陰でコソコソと何か言われても、逆に遠慮なくジロジロと見られても、とりあわないようにしたらしい。
「でも敬梧からは、そんなふうに得体のしれないものを見るような感じは、少しも受けなかったよ」
「嬉しかったな」小さくつぶやく慧がとてもかわいらしくて、敬梧の胸が甘く疼いた。
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