5.恥ずかしいときは、

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 言葉にも温度があったかなと、敬梧は関係のないことを考えた。 「場が凍りついたりするもんな。いや、あれはものの例えか。あとで調べてみよう」    慧さんが、さきほどからきらきらした瞳で、自分を見ている。部屋の温度が上がったのは、少し掠れた声が俺のことを「強い」などと言ったから。確信のこもった言葉が発する熱量のせいだ。だからこんなにも、頬が熱いんだ。  その証拠に慧さんの頬も赤味を帯びている。ふたりして赤い顔をしているのだから、きっとそうだ。もう5月だし……。 「あっ! 忘れてた」 「え? 急に何?」 「あの、俺、次の日曜日が休みになったんですけど……」 「……けど?」 「慧さんがよければ、一緒に出かけませんか?」 「一緒に? 敬梧と?」 「はい、俺と一緒には、ダメですか?」 「ダメじゃない! デート嬉しい!」 「へ?」 「楽しみだね。どこ行く? もう決めてる?」 「へ??」  さっきまで紅潮していた敬梧の顔色が、さっと青ざめる。慧を誘うことで精一杯だったので、ほかのことまでは考えていなった。  すっかり上機嫌で鼻歌まじりの慧を、がっかりさせないためにはどうすればいいだろう。  逃げるように自宅に戻った敬梧は、件名に【至急助言求む】と書いて、青田にメールを送った。 「野村、あのメールは何なんだ?おれは明日、早いんだからな。さっさと用件を言え」  青田は、口では文句を言いながら、すぐに電話をくれた。敬梧は2歳年上の同期生にこれまでも随分と助けられている。 「慧さんと日曜日に出かけることになったから、いい場所を知らないかな、と思って」 「その『さといさん』って誰だよ」 「あ、隣に越してきた人なんだ」 「隣の人?おまえがそんな人と、何の用事なんだ?」 「特に用事とかではなくて……」 「は? 用も無いのに、出かける? まさか……女性なのか?」 「……」 「おい、ひとに物を尋ねておいて黙るのか?」 「男のひとだよ。ときどき、一緒に晩ごはん食べてる。珍しく休みがあうから、出かけようって誘ったんだ」 「おまえから、誘ったのか!?」  敬梧の耳に、青田の大声が反響した。 「な、なんだよ。俺から誘ったら悪いのか」 「いや、そもそも晩メシ食べてるってのも、どういうことだ?」 「明日、早いんじゃなかったのか……?」  眠気を覚ますほどのことを言っただろうか。  敬梧には、何が青田の興味をひいたのかわからない。うろたえていると、スマートフォンにぽんと通知が現れた。 「あっ! 慧さんからメッセージ来てる。またな!」  おい、という青田の声を聞いた気がするが、それにはかまわずに画面をタップした。
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