6.眩しいときは、

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6.眩しいときは、

 ベランダに面したカーテンを開くと、木々が緑を深くして、名前も知らない花が咲いているのが目にはいる。まぶしい季節だ。  敬梧は、今日のために美容院で髪を切った。 あらかじめ「暑くなってきたのでスッキリとした髪型」と、オーダーを考えて出かけた。美容師は、にこやかに応対してくれて「清潔感が増すから」と、眉も自然な形に整えてくれた。  目元を前髪で隠さない自分の顔は、驚くほど垢抜けて見えた。  でも、視界が明るいのは髪型や季節のせいばかりではないと、自分でも気づいている。 「敬梧、おはよう!」  玄関から弾んだ声が聞こえて、これから始まる1日を楽しみにしていると伝えてくれた。 「髪型変えたんだね。似合ってる!」  目ざとく見つけて、なんのてらいもなく口にする。慧にどんな反応をされるかとびびっていた敬梧は、照れ笑いを返すことしかできない。  一方の慧は、見慣れない白色コーデだった。パキっとした白のシャツと、白に近い薄ベージュのパンツ。ゆったりとしたデザインが細身の体に似合っており、耳にかけた髪の毛の柔らかそうな感じとも合っている。  こんな時に気の利いたことを言えない性格が悔しかった。敬梧が何も言わないので、慧が「おかしいかな?」と不安な顔をする。 「おかしくないです! かわいい」 「ありがとう……敬梧は、かっこいいよ」 「あぅ……ありがとうございます」  じつは、髪を切ったあと洋服も買いに行った。  職場では、くだけた雰囲気にならないように白シャツとパンツを着回している。しかしデートに何を着ればよいのかわからない。とりあえず、普段は着ないような色のシャツを買おうと思っていた。 「遊びに行くなら、こんなのもいいですよ」  その日も、何年も着ているトレーナーとデニム姿だった敬梧が、サックスブルーのシャツに迷っていたら、店員が声をかけてくれた。ボートネックのカットソーは程よい厚みがあり、それだけでもだらしなく見えない。サイズも大きすぎず、オフホワイトの身ごろの裾に黒のボーダーがはいっている。黒のアンクルパンツと合わせるとカジュアル感もあり、履きなれたスニーカーとも相性がよさそうだ。  いつもなら話しかけられると尻込みしてしまうが、そのときはアドバイス通りにカットソーとパンツを購入した。 「舞い上がってるのが、バレバレだな」  自分の気持ちを知られるのは、やはり恥ずかしい。でも今日は、ちょっとうれしいような気もする。    
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